副業の収益が大きくなった場合、法人化した方がお得なことが多くなります。
多くの場合節税になりますし、信用も増します。
副業であっても事業規模が大きくなった場合には法人化するほうが有利です。

ただ、 公務員の副業の法人化にはいくつか問題があります。


副業の法人化によるメリット

法人化した方が必要経費として多く積み増すことができるので、結果として納付税額を減らせる場合が増えるのです。

不動産投資の法人化によるメリット

例えば、不動産投資の場合には法人化することによって節税のチャンスが大きく広がります。

不動産売却損の損金算入

法人化すると必要経費(損金)を通算できますから、例えば売却損が出た場合には他の不動産からの収入から差し引くことができます。
個人事業主の場合、不動産所得と譲渡所得は損益通算できないため、売却損を不動産所得から差し引くことはできないのと大きく異なります。

税率差による節税

また、所得税と法人税とでは税率体系が異なっており、所得金額が少ない場合には所得税率の方が法人税率よりも低くなっていますが、所得金額900万円を境に法人税率の方が所得税率よりも低くなります。

このほか役員給与の損金算入や繰越損失等といった節税のメリットが多い法人化ですが、公務員の副業の法人化にはいくつか問題があります。

公務員の副業を法人化するときの問題

役員兼務は国家公務員法、地方公務員法違反

会社役員、たとえ実態は一人親方であったとしても魅力的な響きです。

しかし、公務員が副業を法人化する場合には決して役員になってはいけません。
営利企業等の役員兼務は国家公務員法第103条または地方公務員法第38条に違反しています。
さらにこれは懲戒処分の対象です(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

人事院の承認または任命権者の許可を得られれば役員になることもできますが、承認基準に適合することは難しく、役員になる承認または許可を得ることはできないでしょう。

国家公務員法
§103(私企業からの隔離)職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
第2項前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。
§104(他の事業又は事務の関与制限)職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。
地方公務員法
§38(営利企業等の従事制限)職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない

社会保険から役員兼務はばれる

黙っていれば大丈夫、ということにもなりません。
役員になってしまうと社会保険制度から副業がばれてしまいます。

社会保険制度において、役員は会社に使用されるという考え方が取られています。
したがって、社会保険(健康保険及び厚生年金保険)については、役員一人の会社であっても加入義務が発生します。
本業の職場と自分の会社の両方で社会保険に加入すると、給料合算額に対する保険料をそれぞれの報酬月額で案分して、それぞれの給料から天引きすることになります。

その結果、本業の職場で支払う金額は給料に対する社会保険料と異なることになるので、職場に副業がばれることになります。

法人には費用がかかる

副業がある程度の規模になっていれば問題ありませんが、ある程度の費用がかかります。

法人の設立費用

法人設立には、株式会社の場合、定款認証代・登録免許税等の費用が必要で、最低でも20万円程度の費用が必要です。
不動産投資で使われることの多い合同会社の場合でも10万円以上が必要になります。
専門家に依頼した場合には、これ以外に支払報酬が必要になります。

株式会社の設立費用
  • 資本金:1円以上
  • 会社定款用の印紙代:40,000万円
    • (行政書士に依頼して電子定款を作成すれば不要)
  • 公証人認証手数料:50,000円
  • 謄本交付手数料:数千円程度
  • 登録免許税:150,000円
    • (資本金の額の0.7%、15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)
合同会社の設立費用
  • 資本金:1円以上
  • 会社定款用の印紙代:40,000万円
    • (行政書士に依頼して電子定款を作成すれば不要)
  • 謄本交付手数料:数千円程度
  • 登録免許税:60,000円
    • (資本金の額の0.7%、6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円)

法人住民税均等割

また、法人住民税には均等割があり、所得に関係なく毎年課税されます。

決算書作成費用

株式会社は毎年決算書を作成することになります。
自分で作成できれば無料ですが、税理士に依頼すると支払報酬が必要になります。

こうした費用を上回る収入が安定して得られているのなら、法人化してもいいでしょう。

自身の行動の変化

公務員がやらないことの一つに、「経費で落とす」というのがあります。
公務員の場合、給与所得控除が大きいため、必要経費を計算することはほとんどありません。
しかし、経営者ともなれば節税等も考慮するのでしょう。
特に年末に必要経費を積み上げることがあるようです。

本人にとっては合理的な行動なのでしょうが、周囲からみると金遣いが荒くなったように見えてしまいます。

こうした行動の変化を周囲が察知して、副業がばれることもあります。

副業を法人化する場合の対応策

役員を家族名義(他人名義)にし、かつ、法人から報酬を得ないことにより、公務員の副業制限規定を回避し、ばれずに副業ができる可能性があります。

役員を家族名義(他人名義)にする

役員を自己以外にすれば、役員兼務にならずに済み、 国家公務員法第103条または地方公務員法第38条 を回避できるように見えます。

例えば、法人の代表取締役に公務員がなると、国家公務員法・地方公務員法に違反してしまいますが、配偶者を代表取締役にすれば表面上違反はなくなります。

といっても、「名義が他人であつても本人が営利企業を営むものと客観的に判断される場合も」「自ら営利企業を営むこと」「に該当」しますから、合法になるわけではありません(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について)。

さらに、家族名義や他人名義にすることにより大きな問題が発生します。

役員を家族名義や他人名義にすることによる問題

配偶者(夫または妻)名義にした場合、離婚した際の財産分与で不利になります。
また、公務員は配偶者も公務員であること、いわゆる「二馬力」であることが多く、配偶者を役員にすることができない場合も多いのが実情です。

親名義にした場合、兄弟間で相続の問題になることがあります。

子ども名義にするのは、倫理的に問題があると思いますし、税務調査を呼び寄せることにもなるでしょう。

他人名義の場合には、横領や法人を乗っ取られること等、最悪の事態も想定しなければなりません。
なぜなら、その他人はあなたの法律違反を知っているのですから、脅迫するのは簡単です。
これは配偶者でも同じです。

法人の株式の持ち分も問題

また、自分以外を代表取締役とするとして、発行株式をどう保有するかが問題になります。

国家公務員が株式会社の発行済株式の1/3超の株式を保有する場合で、その会社がその国家公務員が在職する機関と「密接な関係」にあるときは、その国家公務員は所轄庁の長等を経由して、人事院に報告しなければなりません。
密接な関係は許認可関係にあることも含むので、業種によっては該当することがあります(人事院規則14―21(株式所有により営利企業の経営に参加し得る地位にある職員の報告等)。

発行株式の1/3超の株式を保有すると職場に報告しなければならないケースが出てきます。

だからといって、自分が取締役等の役員ではなく、株式も1/3以下しか持たなかったのでは、自分の会社ではなくなってしまうおそれもあります。
配偶者が代表取締役、株式も2/3以上を配偶者が保有する形になると、外形的には配偶者の会社になってしまい、いつ乗っ取られても文句は言えないでしょう。
将来のことはわかりません。
仲がいい時には想像もつかないことが起こり得ます。

さらに、不動産投資の場合に顕著ですが、銀行が公務員に対する融資と扱わなくなり、与信枠の優遇がなくなるおそれもあります。

もっとも、役所と密接な関係を持たなければ報告義務はなありません。
役所との関係ができないように行動すれば1/3超の株式保有をしても報告義務は発生しないので、問題にならないこともあります。

法人から報酬を得ない

法人からの報酬を自分にではなく、配偶者や家族に支払うことにします。

報酬がなければ国家公務員法第104条または地方公務員法第38条に違反しないことになります。
ただし、会計上無報酬であっても、実態として報酬があると税務署が判断すれば、無報酬であることは否定されます。

所得税法第12条(実質所得者課税の原則)
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

所得税法第12条

税務調査から職場にばれることも

頻発することではありませんが、税務調査が入ることもあり得ます。
税務調査の結果、修正申告して過少申告加算税を払わなければならなくなるおそれがあります。
あまり考えたくないことですが、それ以上におそろしいのはその後です。
報酬を得ていたとされた分だけ所得税が増えるのに伴い住民税も増え、その税額変更の通知が職場に届くことになります。
その結果、副業に従事していたことがばれることになりかねないのです。

公務員の副業の法人化はリスクが大きい

法人化することによる利点は、節税効果と信用力の向上です。

一方、欠点は国家公務員法または地方公務員法に違反するおそれがあること、社会保険から職場に副業がばれること、費用がかかること等があります。

法律違反にならず、かつ、職場にばれないように、役員を家族名義(他人名義)にすること、かつ、無報酬にすることが考えられますが、それぞれに問題があり、リスクがあります。

法人には固定的にかかる費用があり、それを超える収入がなければ意味がありません。

副業が副業である間は、欠点を利点が大きく上回ることはないでしょう。
副業が本業になるまで法人化しなくてもいいのではないでしょうか。