本を執筆したい公務員はたくさんいます。
書き方教室に通っている方もいらっしゃいますし、実際に原稿を書き溜めている方も少なくありません。

しかし、商業出版に結び付いた例はそれほど多くないのが現実です。

そんな中、比較的容易に世に出せる電子書籍をお考えの方が増えてきていますが、公務員が電子書籍を出版しても大丈夫なのでしょうか。


公務員と電子書籍の出版

結論からいうと、公務員の電子書籍の出版は制限される副業に該当するため困難です。
ただ、原稿を他人が電子書籍として出版するのであれば、所属庁の長または任命権者の許可を得て執筆できる場合があります。

電子書籍の原稿執筆と出版

電子書籍の出版と一口にいいますが、細かく見ると原稿執筆と書籍の出版に分けることができます。

原稿執筆は、実際に原稿を書き、校正等をして入稿、対価として原稿料を受け取るまでです。
電子書籍の出版は、入稿した原稿から書籍の形にし、販売して対価を受け取ることです。

原稿執筆は国家公務員法第104条、地方公務員法第38条第1項後段の問題であり、書籍の出版は国家公務員法第103条第1項、地方公務員法第38条第1項前段の問題となります。

現実的には、電子書籍の出版は、執筆した原稿を自ら出版する形で行われるのがほとんどでしょう。
分けて考えることはないかもしれません。
しかし、国家公務員法・地方公務員法の運用を検討するのには、このように分けて考える必要があるのです。

公務員の原稿執筆

報酬を得て原稿執筆する場合、所属庁の長または任命権者の許可が必要です(国家公務員法第104条、地方公務員法第38条第1項後段)。
支払われる原稿料が、高額な場合やページ当たり等の単価で計算される場合等には、謝金とは認められず報酬とみなされます。

原稿料が報酬とみなされる場合には所属庁の長または任命権者の許可が必要になります。

この許可は所属庁の長または任命権者の裁量ですが、許可基準が定められています。

国家公務員の場合

許可基準は「職員の兼業の許可について(昭和41年2月11日付総人局第97号)」に定められています。

職員の兼業の許可について(昭和41年2月11日付総人局第97号)
第3 許可基準に関する事項
1 (略)
2 兼業の許可に関する申請が次の各号と一に該当する場合には、原則として、許可しない取扱いとされたいこと
(1)兼業のため勤務時間をさくことにより、職務の遂行に支障が生ずると認められるとき。
(2)兼業による心身の著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を与えると認められるとき。
(3)兼業しようとする職員が在職する国の機関と兼業先との間に、免許、認可、許可、検査、税の賦課、補助金の交付、工事の請負、物品の購入等の特殊な関係があるとき。
(4)兼業する事業の経営上の責任者となるとき。
(5)兼業することが、国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるとき。
3 (略)

職員の兼業の許可について(昭和41年2月11日付総人局第97号)

これらのうち、実質的な判断基準になるのは「(5)兼業することが、国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき」です。

原稿の内容が、本業に関する研究成果や新たな取組等信用の構築や全体の名誉となるものであれば、執筆についての許可を得られる可能性は高いでしょう。
逆に、官能小説だったり、公務の暴露だったりすると、ほとんどの場合許可は得られないでしょう。

芥川賞作家や直木賞作家であれば違った判断になるかもしれません。
しかし、一介の職員が原稿執筆する場合には、相応の内容でなければ所属庁の長の許可は得られないでしょう。

以上から、国家公務員は原稿の内容によっては原稿執筆の許可を得ることができるということになります。

地方公務員の場合

許可基準は自治体の「職員の兼業許可等に関する事務取扱規程」に定められています。
ただ、自治体が違っても文言はほとんど同じもので、しかも実質的に国家公務員の場合と変わるところはありません。

任命権者の許可は裁量ですから、自治体ごとに多少判断が違うこともあるかもしれません。
しかし、国家公務員の許可事例を参照・照会等をするでしょうから、大きな違いが出ることは少ないと考えられます。

原稿執筆についての許可にあたっては、地方公務員の場合も国家公務員と同じような判断となるでしょう。

以上から、地方公務員も原稿の内容によっては原稿執筆の許可を得ることができるということになります。

公務員の電子書籍の出版

電子書籍の出版は国家公務員法第103条第1項、地方公務員法第38条第1項前段の「自ら営利企業を営」むことに該当し、これを行うには人事院の承認または任命権者の許可を得ることが必要です(国家公務員法第103条第2項、地方公務員法第38条)。

しかし、承認または許可には基準が定められており、電子書籍の出版はこの基準を満たすことができません(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)及び人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について、各自治体の兼業許可等に関する事務取扱規程等)。

承認または許可を得ることができないので、公務員が電子書籍の出版をすれば懲戒処分の対象となります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

なお、結果的に出版した電子書籍が売れなかったとしても、販売を開始した時点で「自ら営利企業を営」んだことになるので、法律に違反したことになります。

すでに出版されている書籍の電子書籍化

公務員が著した書籍を電子書籍にする場合でも、人事院の承認または任命権者の許可の許可が必要となる場合があります。
通常新たな原稿料が発生することはありませんが、印税に関する契約を結びなおす必要が出てきます。

印税は出版契約に基づいて支払われる対価ですから報酬に該当し、これを得るためには承認または許可を得る必要があります。
しかし、承認または許可を得ることは困難であるため、新たな契約で印税を受け取ろうとすると法律に違反してしまうことになります。

公務員が電子書籍を出版したいなら

報酬を得て原稿を執筆するには、所属庁の長または任命権者の許可を得る必要がありますが、内容によっては許可を受けられないことがあります。

また、公務員が電子書籍を出版することは、国家公務員法・地方公務員法に違反するので、懲戒処分の対象となる行為です。

したがって、公務員が自ら執筆した原稿を電子書籍として出版することは、懲戒処分の対象となりかねない危険な行為ということになります。

他人に出版してもらう

しかし、公務員が執筆した原稿を電子書籍にする方法はあります。
執筆した原稿を他人に電子書籍を出版してもらうのです。

当然、出版する他人は公務員等ではない必要があります。
また、原稿料は謝金程度にする必要がありますし、印税は受け取らないことにしなければなりません。

これらをクリアできれば、合法的に原稿を電子書籍にできるようになります。

家族名義なら簡単だが

もっとも簡単なのは、家族名義で出版することでしょう。
ただし、これは形式的には合法にできても、実質的には他人名義で副業をしていることになります。

万が一、当局にばれた場合には、副業隠しとしてより重い懲戒処分となるおそれがあります。

公務員は電子書籍の出版は向いていない

公務員の電子書籍の出版は、人事院の承認または任命権者の許可を得ることが難しいため、合法的することはほとんどできません。
承認または許可のない電子書籍の出版は、懲戒処分の対象となります。

公務員が執筆した原稿を他人が電子書籍として出版することは可能です。
原稿料が謝金に該当することや印税を受け取らないことにすることで、合法的にすることができます。

しかし、形式的に他人名義で出版しただけの場合には、脱法行為としてより重い懲戒処分の対象となることもあります。

公務員は電子書籍以外で表現する

表現の方法は何も出版に限られるわけではなく、出版にこだわる必要はないでしょう。

公務員は電子書籍以外の表現方法でいくべきです。