作家や執筆業にあこがれている公務員が多いのは有名な話です。
小説やエッセイの書き方教室に通う公務員は多く、クラスに何人もいることだって珍しくないそうです。

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公務員が作家・執筆業になれるか

元一般職公務員の作家は意外と多く、「三崎亜記」、「篠田節子」、「立松和平」等がそうです。
それと平岡公威、「三島由紀夫」も約10カ月だけ大蔵省事務官でした。
もっとも三島の場合は作家が大蔵官僚になっただけですが。

意外なところでは「池波正太郎」も元徴税吏員でした。
陸軍総監だった「森鴎外」も元公務員になるでしょう。
公立学校の先生であれば「俵万智」、国立大学の先生まで含めれば「夏目漱石」、「高橋和巳」 、「森博嗣」といった名前も出てきます。

このほかにも公務員から作家になっている方は多くいらっしゃいます。
公務員が作家・執筆業になることは不可能なことではないのです。

公務員の副業と作家・執筆業

作家・執筆業についた方の多くが、専業として成立するとの見込みが立ってから公務員の職を辞しています。
それまでの間は作家・執筆業を副業としていました。
作家・執筆業は公務員の副業として成立するのです。

公務員の副業の制限

ただし、公務員の副業には禁止といえるほど厳しい制限があって、自由にできるわけではありません。

国家公務員法・地方公務員法は公務員の副業(兼業)を制限しており、報酬を得て事務・事業に従事するためには所轄庁の長または任命権者の許可を得ることが必要です(国家公務員法第104条、地方公務員法第38条)。

しかし、営利企業から報酬を得る副業は原則として認められません。
在職する機関と利害関係にない非営利企業の事務・事業に従事する場合で、公務の信用を傷つけるおそれがないとき等に限って、報酬を得る副業の許可が得られます。
これは職務の公正な執行の確保と公務の信用の確保の観点から定められたものです。

したがって、報酬を得る副業としての作家・執筆業は、許可を得られないことが原則になります。

許可を得られる作家・執筆業

なお、許可を得ないで副業をしていることが当局にばれれば、懲戒処分の対象となります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

原則というからには例外があります。
副業として許可を得られる作家・執筆業もあります。

許可を得るためには、まずは職員が許可にかかる副業が「許可しない基準」に該当しないことを証明する必要があります。
そのうえで、許可権者である所属庁の長または任命権者が許可すると決定して、ようやく許可を得ることができます。

副業が許可しない基準に該当しないこと

作家・執筆業が許可を得られるのは、副業に関して利害関係発生のおそれがなく、かつ、職務の遂行に支障がないと認められる場合で、さらにいくつかの基準を満たしたときです(職員の兼業に関する内閣官房令第1条、職員の兼業の許可について(昭和41年2月11日付総人局第97号)、各自治体の営利企業等の従事制限に関する規則及び職員の兼業許可等に関する事務取扱規程)。

これらの基準のうち問題になりやすいのは「許可をしない基準」のうち次のものです。

  • 兼業のため勤務時間を割くことにより、職務の遂行に支障が生ずると認められるとき
  • 兼業による心身の著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を充てると認められるとき
  • 兼業することが、公務員としての信用を傷つけ、または全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき

許可を得るためには、これらに該当しないことを職員が証明する必要があります。

許可権者が許可すること

副業の許可は許可権者である所属庁の長または任命権者の裁量行為です。
職員が「許可しない基準」に該当しないとしても、許可権者が該当すると判断すれば許可はされないことになります。
とくに、公務員としての信用を傷つけ、または全体の不名誉となるおそれがあると認められるときについては、いかようにも判断できます。

結局、許可を得ることは不可能ではありませんが、必ずしも容易ともいえません。

無報酬の作家・執筆業なら公務員でも

副業の作家・執筆業であっても「報酬」を得ていない場合には許可は不要です。
つまり、無報酬の作家・執筆業なら公務員もできます。

報酬の意味

この場合の「報酬」は、「名称の如何を問わず、労務、労働の対価、すなわち一定の労働を給付することに対して双務契約に基づき支給あるいは給付されるもの」です。
労務、仕事の完成、事務処理の対価として支払われる金銭で、例えば講演料、原稿料、布施、車代等といった謝金、実費弁償に当たるものは「報酬」に含まれません。

この意味での「報酬」を得なければ、副業の許可は不要ということになります。

ただし、原稿料は「報酬」に含まれないと書いてあるから、公務員も許可を得ずに作家・執筆業を副業にできる、と考えるのは早計です。

報酬にあたる原稿料とあたらない原稿料

「報酬」に当たらない原稿料であるためには、一定の労働に対して双務契約に基づいて支払われるものでないことが必要です。

例えば学会誌や業界誌の投稿論文の原稿料がこれに該当します。

出版社から依頼されて執筆した原稿に対する原稿料は、労働の対価であり双務契約に基づいて支払われるものなので、「報酬」に該当します。

印税は報酬にあたる

印税は、著作物の出版における著作権の使用料で、出版契約に基づき出版者から著作権者に対して支払われる金銭です。

出版契約に基づき出版者から著作者に支払われる印税は「報酬」に該当するとされています。

実際、公務員が作家・執筆業を副業する場合には、印税の受取をしていないことが多いようです。

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公務員の作家・執筆業をするには

副業が制限される公務員が作家・執筆業をすることについては、3つの段階に分けて考えることができます。

  • 許可が不要な段階
  • 許可を得て副業とする段階
  • 専業の見込みが立った段階

許可が不要な段階

所属庁の長または任命権者の許可が不要な作家・執筆業であるためには、「報酬」を得ないことが必要です。
公務員が作家・執筆業を副業としたいのであれば、執筆の対価として双務契約に基づく支払いを受けてはいけないのです。

報酬に当たらない原稿料

出版社からの依頼を受けて執筆すると、その原稿料は双務契約に基づくので「報酬」に該当してしまいます。
だから、公務員は学会誌や業界誌等への投稿や懸賞投稿を中心に行うことになります。

公務員である間は印税は受け取らない

原稿が認められ、出版の運びとなっても印税契約を結んではいけません。
出版契約に基づく印税の支払いは「報酬」にあたるので、許可が必要になるからです。

許可を得て副業とする段階

実力が認められ、出版社から継続的な依頼がくる見込みがあるならば、許可を得て「報酬」を得る副業としたいところです。

ただ副業の許可を得られるかどうかの問題が出てきます。
副業の許可が得られるかは許可権者の裁量にかかっているので、申請内容に問題がなくても許可が得られないこともあり得ます。

継続して許可が得られるのであれば、副業として作家・執筆業を続けていくのもいいでしょう。
しかし、仕事が増えて申請が多くなったり、許可が得られないことが出てきたりするのなら、無報酬の作家・執筆業を続けるか、専業を目指すか、作家・執筆業をあきらめるか、のどれかを選ぶことになるでしょう。

専業作家の見込みが立った段階

専業作家となる見込みが立ったとしても、公務員を辞めなければいけないわけではありません。
それでも専業作家になれるのであれば公務員を辞める決断をされる方の方が多くなるでしょう。

専業作家となるために公務員を辞めるのであれば、退職以降も継続して仕事が入るようにしておく必要があります。
が、在職中の営業活動や出版契約締結は副業にあたる行為なので、許可を得なければなりません。
許可を得ないままだと、最悪の場合退職直前に懲戒処分になるおそれもあります。

とはいえ、在職中の営業活動や出版契約には許可が必要になりますが、許可を得られるかは不透明です。
在籍中に許可を得ずに営業活動や出版契約をして、出版社と打ち合わせの上原稿を執筆、引き渡しをしたとなれば、副業として問題になり得ます。

そんなときには原稿の納品日や出版契約日を退職日の翌日以降する、という方法があります。
こうすると許可を得る必要が「形式的に」なくなるからです。
実際に○○先生はそうしていたとかいなかったとか、そんな話があります。

職務専念義務や守秘義務に反するようなことがなければ、出版社と個人的に話をすることに問題はありません。
また、出版社との話に触発されて作品のアイディアできていっても問題はないでしょう。
個人的に原稿を書き溜めることに問題はあるはずがなく、書き溜めている原稿を出版社が見てしまっても直ちに問題になるものではありません。

あくまで退職日の翌日に出版社と契約して、直後に書き溜めておいた原稿を引き渡したのですから、「形式的に」問題がないことなのです。

この辺りは契約業務を想像していただくとわかりやすいかと思います。

公務員も専業を目指すべき

専業とする見込みが立ったのであれば、副業ではなく専業を目指すべきです。

職員一人ひとりの代わりはいくらでもいます。
余人をもって代えがたい職など公務にはありません。

やりようはいくらでもあります、やりたいことを目指していいのではないでしょうか。

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