結論から言うと、公務員は副業の不動産投資を法人化、つまり資産管理法人を設立して行うのはやめておくべきです。
法人化の利点は大きいのですが、欠点、特に公務員特有の欠点が大きいためです。
目次
公務員の副業の不動産投資を法人化
法人化(資産管理法人設立)する利点
不動産投資の法人化には主に次のような利点があります。
- 節税
- 不動産売却損の損金算入
- 税率差による節税
- 必要経費増加による節税
- 役員給与による節税
- 損失繰越による節税
- 信用力向上
法人化による節税
不動産売却損の損金算入
不動産投資を個人事業として行う場合、不動産所得と譲渡所得は損益通算できないため、売却損を不動産所得から差し引くことはできません。
一方、法人であれば必要経費(損金)を通算できるので、売却損が出た場合には他の不動産収入から差し引くことができ、節税することが可能です。
売却損が出ないに越したことはないのですが、法人化してあれば万一の場合にも節税につなげることができます。
税率差による節税
不動産投資を個人で行っている場合には、国税は所得税、地方税は住民税を納付します。法人化すると、国税は法人税、地方税は法人住民税を納付することになります。
所得税と法人税とでは税率体系が異なっており、所得金額が少ない場合には所得税率の方が法人税率よりも低くなっていますが、所得金額900万円を境に法人税率の方が所得税率よりも低くなります。
したがって、給与所得と不動産所得(不動産投資の所得)を通算(損益通算)した後の所得金額が900万円を超えるのであれば、法人化すると節税できることになります。
必要経費増加による節税
所得税及び法人税とも、課税標準となる所得金額は収入金額から必要経費を控除して計算します。
所得=収入金額-必要経費
税額=所得×税率
多くの場合、法人の方が個人事業主よりも必要経費を広く認められます。
法人化すると必要経費(損金)を通算できますから、例えば売却損が出た場合には他の不動産からの収入から差し引くことができます。
個人事業主の場合、不動産所得と譲渡所得は損益通算できないため、売却損を不動産所得から差し引くことはできないのと大きく異なります。
法人化した方が必要経費として多く積み増すことができるので、結果として納付税額を減らせる場合が増えるのです。
役員給与による節税
法人化すれば一定の条件のもとで、役員に対して支払う役員給与を必要経費とする(損金算入する)ことができます。
役員給与として、毎月、相当な範囲にある同じ金額を受け取っている場合(定期同額給与)には、必要経費(損金)への算入が認められます。
法人化すれば親族についても、従業員として勤務していればその給与を会社の経費(損金)にできます。
この点、個人事業主の場合には親族への給与は原則として経費にできず、例外として認められるためには一定の条件があるのとは大きく異なります。
損失繰越による節税
個人事業主の場合、所得税の損失繰越は最大で3年間しかできませんが、法人化すると法人税の繰越損失は最大で10年間することができます。
信用力向上
法人化すると、個人事業よりも社会的な信用が高まります。
取引先を法人に限定している企業もありますから、信用を背景に事業を拡大していくことも可能になります。
世間には法人の方が個人事業よりも大規模な事業をしているという印象があります。
相手方は実態はわからないのですから、そうした印象を利用するのも大切です。
不動産投資で法人化(資産管理法人設立)する欠点
資産管理法人を設立することの欠点は費用がかかることです。
主なものは次のとおりです。
- 法人の設立費用
- 法人住民税均等割
- 決算書作成費用等
法人の設立費用
法人設立には、株式会社の場合、定款認証代・登録免許税等の費用が必要で、最低でも20万円程度の費用が必要です。
不動産投資で使われることの多い合同会社の場合でも10万円以上が必要になります。
司法書士等専門家に依頼した場合には、これ以外に支払報酬が必要になります。
株式会社の設立費用
- 資本金:1円以上
- 会社定款用の印紙代:40,000万円
- (行政書士に依頼して電子定款を作成すれば不要)
- 公証人認証手数料:50,000円
- 謄本交付手数料:数千円程度
- 登録免許税:150,000円
- (資本金の額の0.7%、15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)
合同会社の設立費用
- 資本金:1円以上
- 会社定款用の印紙代:40,000万円
- (行政書士に依頼して電子定款を作成すれば不要)
- 謄本交付手数料:数千円程度
- 登録免許税:60,000円
- (資本金の額の0.7%、6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円)
法人住民税均等割
法人住民税には均等割があり、事業所得に関係なく毎年課税されます。
決算書作成費用等
株式会社は毎年決算書を作成することになります。
税理士に依頼すると支払報酬が必要になります。
公務員が不動産投資を法人化する欠点
さらに、公務員特有の欠点があります。
公務員が副業を法人化する場合には、その役員になってはいけないのです。
営利企業等の役員兼務は国家公務員法第103条または地方公務員法第38条に違反であり、これがばれれば懲戒処分の対象です(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。
社会保険から役員になったことがばれる
役員になっても黙っていればばれない、とはなりません。
役員になったことは社会保険制度からばれてしまいます。
社会保険制度においては、役員は会社に使用されるという考え方が取られていて、役員一人の会社であっても社会保険(健康保険及び厚生年金保険)への加入義務が発生します。
本業の職場と自分の会社の両方で社会保険に加入すると、給料合算額に対する保険料をそれぞれの報酬月額で案分して、それぞれの給料から天引きすることになります。
その結果、本業の職場で支払う金額は給料に対する社会保険料と異なることになるので、職場に役員になったことがばれるてしまいます。
法人役員を家族名義や他人名義に
この点、家族等を法人の役員にすれば、名目上営利企業等の役員兼務は回避できます。
しかし、許可を得ずに報酬を得て法人の事業に従事してしまうと国家公務員法第104条または地方公務員法第38条に違反してしまいます。
これもやはり懲戒処分の対象です(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。
公務員が不動産投資を法人化してしまうと、せっかく合法的に不動産投資を副業にできる地位を手放すことになってしまいます。
役員を家族名義や他人名義にすると問題が
役員を家族名義や他人名義にすれば、名目上副業制限を回避することができます。
しかし、そのために人間関係に良くない変化が起きることがあります。
金に目がくらむことが起こり得るのです。
配偶者(夫または妻)名義にした場合、夫婦仲がいい時はいいのですが、そうでなくなった時に問題が大きくなります。
最悪の場合、離婚を決心する引き金になることすら考えられます。
事業は配偶者名になっていますから、半分を持っていかれても仕方がありません。
また、公務員は配偶者も公務員であること、いわゆる「二馬力」であることが多く、配偶者を役員にすることができない場合も多いのが実情です。
そもそも独身者には、配偶者名義にすることはできません。
親名義にした場合、相続の際に兄弟間で争いになることがあります。
他人名義の場合には、横領や法人を乗っ取られること等も想定しなければなりません。
脱法行為の弱みを握られる
名義上の役員はあなたが他人名義で法人を営んでいるという脱法行為を知っています。
これを職場に密告するといわれれば、あなたが逆らうことは難しいでしょう。
役員を他人名義にすると重い懲戒処分に
役員の兼務制限の規定では、名義が他人であっても本人がしていると客観的に判断されれば、自ら営利企業を営んでいるものとみなされます。
他人名義にしていたことがばれた場合、脱法行為を隠蔽しようとしたものとされ、より重い懲戒処分となるおそれすらあります。
不動産賃貸業を営む法人の発起人となるとともに、 法人の代表者を母親名義にしたうえで、その法人の実質的な経営を行ったとして減給1/10(3カ月)の懲戒処分となった事例があります。
アパート経営で副業、仙台市職員を減給処分 年600万円超稼ぐ
仙台市は8日、不動産賃貸業を実質的に営み、副業を禁止する地方公務員法に違反したとして、市納税部の40代の男性職員を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にした。男性職員は平成20年、市内のアパート3棟を購入し、年間約600万~700万円の賃料収入を得ていた。
市によると、男性職員は「資産運用のつもりだった。副業には当たらないと思った」などと話している。28年3月には、発起人となって不動産会社を設立。母親を代表者に据え、実質的に経営していたという。
昨年7月、職場の上司との会話で発覚した。市は「市民の信頼を損ねたことを深くおわびする。再発防止に努める」としている。
産経新聞 平成31年2月8日
https://www.sankei.com/affairs/news/190208/afr1902080027-n1.html
家族名義や他人名義の法人設立をおすすめしている方もいらっしゃいますが、現実の当局の対応は厳しいものです。
ばれなければいい、という発想は危険です。
40代の職員が減給の懲戒処分です。
減給だけでなく昇給・昇進の遅れもあり、退職金にも少なくない影響が出ます。
同じ規模の不動産投資はできなくなるでしょうし、経済的な損失は大きくなるでしょう。
職位や部署によっては勤務を続けることができなくなるかもしれません。
どうしても家族名義や他人名義で法人化したいのであれば、ばれたときの大きな損失を覚悟する必要があります。
公務員の副業の法人化は難しい
法人化には節税効果等があるものの、公務員が副業の不動産投資でするには問題が大きく、適当ではありません。
職場にばれず、法律違反にならないように、役員を家族名義(他人名義)にしたうえで無報酬で働くことが考えられます。
しかし、この方法を採用すると、ばれたときにむしろ問題が大きくなるので、安易にすすめられるものではありません。
公務員が副業でしている限り、不動産投資を法人化することは得策ではありません。
少なくともそれなりの覚悟をもってしなければいけないことです。