公務員の懲戒処分に関する報道で不思議なものがありました。
不動産投資・太陽光発電を副業にしていたものなのですが、処分の理由がよくわからないのです。
目次
公務員の副業に不動産投資・太陽光発電はOKだけど…
公務員にとって不動産投資・太陽光発電はやりやすい副業です。
というのも、一定規模未満であれば人事院の承認または任命権者の許可が不要で、それ以上であっても承認または許可を得ればすることができるからです。
公務員が不動産投資・太陽光発電のせいで懲戒処分
にもかかわらず、不動産投資・太陽光発電を副業にしたせいで懲戒処分を受けることがあります。
その多くは一定規模以上のものを承認または許可を得ずにしていた場合です。
承認または許可を得ずに不動産投資・太陽光発電を副業とした場合、懲戒処分の標準的な量定は減給または戒告となっています(人事院または各自治体等の「懲戒処分の指針について」)。
ただし、必ず減給または戒告になるということではなく、職員の態度や事案の内容等によって重くなったり軽くなったりしることがあります。
不動産投資・太陽光発電で懲戒処分にならない?
先日報道された事案です。
報道の全文を引用しますが、注目するのは後半です。
確かに前半も目が行ってしまう内容ではあります。
大阪府警の20代女性職員、風俗店に勤務「月に20万円稼いだ」
大阪府警運転免許課の20歳代の女性職員が、風俗店に勤務し、減給3か月(10分の1)の懲戒処分を受けていたことが府警への取材でわかった。職員は昨年春に依願退職した。警察は地方公務員法で原則、副業を禁じており、府警は「職務に影響を及ぼす行為で、再発防止に努める」としている。
府警監察室によると、女性職員は2018年春頃から府内の風俗店に勤務。昨年春、府警に匿名の通報があり発覚した。内部調査に「約1年間働き月約20万円稼いでいた。遊興費に使っていた」と説明したという。
また西成署などで勤務する40歳代の巡査部長ら4人も、太陽光発電などで利益を得たとして、昨年3~4月に本部長訓戒などの処分を受けていたことがわかった。同署の巡査部長は銀行から約1億円の融資を受け、太陽光発電のパネルや投資用の賃貸マンションを購入。売電や家賃収入で5年間で約1000万円を得ており、昨年3月に依願退職した。他の3人も巡査部長に勧められて、投資目的で太陽光パネルなどを購入していたという。
読売オンライン 令和2年2月7日
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200207-OYT1T50106/
大阪府警の巡査部長が不動産投資・太陽光発電を副業としていた事例です。
報道では処分となっていますが、巡査部長が受けたのは懲戒処分ではなく、本部長訓戒です。
本部長訓戒は懲戒処分とは異なり、履歴にも残りませんし、基本的には制度的な不利益を受けることはありません。
大阪府警の判断は不可解
今回の報道ではいくつかの点が明確ではありません。
- どこに副業制限違反があったか
- 処分の量定は適切だったか
そのため大阪府警の判断が不可解なものにしか読めなくなっています。
どこに副業制限違反があったのか
今回の事例は、公務員の副業を制限する規定に違反した行為があったので本部長訓戒を受けた、というものです。
ただ、報道からではどこに違反行為があったのかが明確ではありません。
そこでいくらか考察を加えます。
一定規模未満の不動産投資や定格出力10kW未満の太陽光発電であれば、地方公務員であっても太陽光発電をするのに任命権者の許可は不要です。
なお、不動産投資が一定規模未満となるためには、物件が5棟未満かつ10室未満、年間収入500万円未満であること等が必要です。
今回の事例では、約1億円の融資を受けて不動産投資及び太陽光発電を副業にして、5年間で合計約1,000万円の収入を得ていました。
さらに処分された職員は同僚を太陽光発電に勧誘してます。
報道には書いてありませんが、任命権者の許可を得ていなかったものと考えられます。
約1億円で不動産投資及び太陽光発電をはじめたとのこと、不動産物件が5棟以上または10室以上の規模になっていたとは考えにくいでしょう。
5年間で約1,000万円の収入ですから、年平均約200万円の収入です。
特定の年だけであっても年間収入500万円以上になることは多くはないでしょう。
報道からは太陽光発電の定格出力は不明ですが、勧誘されて太陽光発電をはじめた同僚も何らかの処分を受けていることから、10kW以上のものであったと思われます。
以上から、巡査部長らは定格出力が10kW以上の太陽光発電の売電を無許可で行っていたと推測されます。
処分の量定が適切だったか
仮に、定格出力が10kW以上の太陽光発電の売電を無許可でしていたものとします。
許可を要する副業を無許可でしていたのですから、懲戒処分となるのが適当な事案です。
定格出力という明確にわかる基準に反しているのですから、意図的な違反行為であるのは明らかです。
しかも、同僚を違反行為に誘っているのですから、悪質性が高いと思われます。
なお、紹介料等を受けていたのであれば、さらに悪質性が高いと思われますが、報道にもありませんのでこれはなかったのでしょう。
無許可での副業の標準的な懲戒処分は減給または戒告です。
事案の内容に悪質性があるので、より重い処分になってもおかしくないものです。
それにもかかわらず懲戒処分ではなく本部長訓戒となっています。
果たして適切な量定だったのでしょうか。
大阪府警の懲戒処分に関する報道
量定の適切さで気になったのが次の報道です。
大阪府警の懲戒処分 去年は7人
去年、懲戒処分を受けた大阪府警の警察官や警察職員は7人で、平成14年以降、最も少なくなりました。
大阪府警察本部によりますと、去年1年間に免職や減給などの懲戒処分を受けた警察官や警察職員は7人で、統計が残る平成14年以降、最も少なくなりました。
NHK NEWS WEB 関西 NEWS WEB 令和2年2月6日
内訳は▼懲戒免職が1人▼戒告が1人▼減給が5人です。
これまでに公表されていないものでは、カメラ付きの腕時計で女性2人の下着を盗撮した40代の男性巡査部長や、飲み会後の帰り道に放置された自転車に乗った30代の男性巡査部長が書類送検されたうえ、減給処分となっています。
また、内規による訓戒や注意を受けたのは延べ223人で、2つの警察署で捜査書類などが不適切に放置されていた問題で6人が注意を受けたほか、嫌いな元上司が進める事件の邪魔をしようと、関係者に関連する内容を伝えた警察官が訓戒を受けたケースがありました。
大阪府警は「引き続き不祥事の防止に努めます」としています。
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20200206/2000025073.html
令和元年に懲戒処分になった大阪府警の職員数は、平成14年以降最も少なかったそうです。
これを受けて「引き続き不祥事の防止に努めます」としているようです。
確かにこれだけを見れば、大阪府警の不祥事防止策が功を奏しているようです。
ただ、次の記事を合わせると、違った様子が見えてきます。
大阪府警、18年逮捕者は過去最多15人 免職も8人
2018年に逮捕された大阪府警の警察官や職員は15人で、記録が残る02年以降で最多だったことが31日、府情報公開条例に基づく開示文書や府警への取材で分かった。懲戒処分を受けた警察官は前年から9人増え28人。うち免職は8人で、02年以降最も多かった。
大阪府警では昨年、富田林署の逃走事件などで警察官らの処分が相次いだ。訓戒や注意は職員を含め183人で、前年から41人増えた。
未公表の処分では、警察署勤務の男性警部補=処分当時(51)=が保管していた防犯協会の協会費を横領したとして、昨年9月に書類送検され、減給10分の1(6カ月)の懲戒処分となっていたことが分かった。警部補は既に退職している。
ほかには富田林署逃走事件後の昨年9月、別の署で容疑者が入った留置場の居室の鍵を約1時間にわたって閉め忘れた男性警部補=同(55)=や、逮捕手続きの書類を一部書き換えて廃棄したとして書類送検された男性警部補=同(44)=らが所属長注意になった。
サンスポ・コム 平成31年1月31日
https://www.sanspo.com/geino/news/20190131/tro19013119430023-n1.html
「逮捕手続きの書類を一部書き換えて廃棄したとして書類送検された」にもかかわらず所属庁注意ですんでいることなどにはいったん目をつぶるとして…。
平成30年に逮捕された大阪府警の職員は、平成14年以降最多となっています。
府警職員の逮捕者というのはインパクトの強い話です。
また、懲戒免職となった職員も最多、懲戒処分を受けた職員も前年よりも増えています。
訓戒や注意を受けた職員も約29%、41人も増加しています。
これに対し、令和元年には逮捕者はなく、懲戒処分になった職員数も平成14年以降最少になっている一方、訓戒や注意を受けた職員は約22%、40人も増加しています。
令和元年は逮捕者や懲戒処分になった職員が減り、それよりも軽い訓戒や注意を受けた職員が増えています。
また、逮捕者と懲戒処分、訓戒や注意を受けた職員数の合計は、平成30年は226人、令和元年は230人で、むしろ増えています。
非違行為の数は変わらないのに、重い処分を受けた職員が減っています。
不思議の国の出来事として
現実の大阪府警とは関係なく、不思議の国で思考実験をしてみます。
- 不思議の国では前年、非違行為の処理数が惨憺たる結果になってしまいました。
- 王様はそのままの数字では格好がつかないと考え、今年は防止策を施しましたが、非違行為の発覚数は変わりませんでした。
- 困った家来は、懲戒処分となってもおかしくない事案を訓戒や注意とすることで懲戒処分を減らし、王様の印象を変えようとしました。
というひどいおとぎ話も考えられるでしょう。
さらに、
- 王様はもっといい数字にするように家来に命じました。
- でも家来は防止策に効果はないことがわかっているので、非違行為が発覚しないようにすることにしました。
という絶望的な話も考えられます。
もちろん不思議の国での思考実験です。
現実世界とは一切関係ありません。