公務員であっても副業で不動産投資をすることはできます。
ただ、一定の制限があり、これに反すると懲戒処分の対象となります。

しかも、最悪の場合懲戒免職となるおそれすらあるのです。


公務員も不動産投資をできる

公務員にも不動産投資をすることが認められています。

不動産投資が認められるというよりも、不動産賃貸が認められるので不動産投資も認められる、という形になっています。

公務員に不動産賃貸が認められているのは、職員が代々守っていく不動産を維持できるようにするためです。
不動産賃貸を一切認めないとなると、資産家の子どもは公務員になれなくなり、家柄により職業選択を制限することになってしまいます。
かつては、特に地方では、ある程度の資産を持った家の子弟が公務員になっていたということもあり、現実的に要請された兼業制限の緩和です。

公務員ができる不動産投資

公務員は、一定規模未満であれば特に許可等を得なくても不動産投資をすることができます。

また、次の要件に該当する場合であっても、人事院の承認または任命権者の許可を得る必要はあるものの、不動産投資をすることができます。

1 不動産の賃貸(次のいずれかに該当)
・独立家屋の数が5棟以上または区画の数が10室以上(いわゆる5棟10室基準)
・土地の賃貸契約の件数が10件以上
・劇場等の娯楽集会、遊技等の設備がある
・建物が旅館、ホテル等特定の業務用途
2 駐車場(次のいずれかに該当)
・建築物または機械式
・駐車台数が10台以上(いわゆる10台基準)
3 賃貸料収入が年額500万円以上

不動産投資にかかる承認基準

承認または許可を得る必要がある場合であっても、次の基準を満たせば、承認または許可を得ることができるとされます。

  • 職員の職務と不動産賃貸との間に特別な利害関係またはその発生のおそれがない
  • 不動産又は駐車場の賃貸に係る管理業務を事業者に委ねること等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らか
  • その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じない

基準は必ずしも明確でなく、現実的には裁量が働きますが、公務員が副業で不動産投資をするための承認または許可を得ることは不可能ではありません。

国家公務員法第103条(私企業からの隔離)
職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
2 前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。

国家公務員法第103条

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)
人事院は、国家公務員法に基き、職員が官職以外の職務又は業務に従事する場合に関し次の人事院規則を制定する。
1 職員が営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね又は自ら営利企業を営むこと(以下「役員兼業等」という。)については、人事院又は次項の規定により委任を受けた者は、その職員の占めている官職と当該営利企業との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがなく、かつ、営利企業に従事しても職務の遂行に支障がないと認められる場合であって法の精神に反しないと認められる場合として人事院が定める場合のほかは、法第百三条第二項の規定により、これを承認することができない。
2~7 略

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について
第1項関係
 1~2 略
 3 「自ら営利企業を営むこと」(以下「自営」という。)とは、職員が自己の名義で商業、工業、金融業等を経営する場合をいう。なお、名義が他人であつても本人が営利企業を営むものと客観的に判断される場合もこれに該当する。
 4 前項の場合における次の各号に掲げる事業の経営が当該各号に定める場合に該当するときは、当該事業の経営を自営に当たるものとして取り扱うものとする。
一 略
二 不動産又は駐車場の賃貸 次のいずれかに該当する場合
 (1)不動産の賃貸が次のいずれかに該当する場合
  イ 独立家屋の賃貸については、独立家屋の数が5棟以上であること。
  ロ 独立家屋以外の建物の賃貸については、貸与することができる独立的に区画された一の部分の数が10室以上であること。
  ハ 土地の賃貸については、賃貸契約の件数が10件以上であること。
  ニ 賃貸に係る不動産が劇場、映画館、ゴルフ練習場等の娯楽集会、遊技等のための設備を設けたものであること。
  ホ 賃貸に係る建物が旅館、ホテル等特定の業務の用に供するものであること。
 (2)駐車場の賃貸が次のいずれかに該当する場合
  イ 建築物である駐車場又は機械設備を設けた駐車場であること。
  ロ 駐車台数が10台以上であること。
 (3)不動産又は駐車場の賃貸に係る賃貸料収入の額(これらを併せて行つている場合には、これらの賃貸に係る賃貸料収入の額の合計額)が年額500万円以上である場合
 (4)(1)又は(2)に掲げる不動産等の賃貸と同様の事情にあると認められる場合
三 略
 5 「人事院が定める場合」は、次に掲げる場合とする。
  一 不動産又は駐車場の賃貸に係る自営を行う場合で、次に掲げる基準のいずれにも適合すると認められるとき。
   (1) 職員の官職と承認に係る不動産又は駐車場の賃貸との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがないこと。
   (2) 入居者の募集、賃貸料の集金、不動産の維持管理等の不動産又は駐車場の賃貸に係る管理業務を事業者に委ねること等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること。
   (3) その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと。
  二~三 略
 6~7 略

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について

地方公務員法第38条(営利企業への従事等の制限)
職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。

地方公務員法第38条

公務員の不動産投資に関する懲戒処分

ルールを守っていれば、公務員が不動産投資をしたからといって懲戒処分になるおそれはありません。
それでも、懲戒処分を受ける職員も少なからずいます。

「闇」不動産投資

それは、不動産投資を「闇」で、つまり承認または許可を得ずにやっている場合がほとんどです。

確かに、人事院の承認または任命権者の許可を得るのは面倒です。
書類仕事は増えますし、投資のタイミングを逃すおそれもあります。
場合によっては承認または許可が得られないこともあるでしょう。

それでも、公務員を続けながら副業で不動産投資をしたいのであれば、承認または許可を得なければなりません。

職務専念義務違反

また、職務専念義務違反の場合もあるかもしれません。

勤務中に取引や管理の連絡をしていれば、職務専念義務違反にあたります。
自分のスマホから連絡してもダメですし、職場のパソコンを使うのは最悪です。

やりやすいからこそしっかり手続きを

公務員の副業として、不動産投資を選ぶ方は多いです。
現実的にもやりやすく、周囲でもやっている人が多いため、承認や許可を得なくても構わない、という意識になることもあるのでしょう。

その意識のまま、公私の区別がなく不動産投資にのめりこむと、公務中も不動産投資に取り組んでしまうのかもしれません。

不動産投資は、公務員がやりやすく安全にできる副業です。
やりやすい副業であるからこそ、しっかりと手続きをして承認または許可を得て、安全に不動産投資に取り組むべきです。

不動産投資で懲戒免職は稀

公務員が承認または許可を得ずに不動産投資をしていたことがばれると懲戒処分の対象となります。
ただし、懲戒免職になることはまれです。

標準例は減給または戒告

人事院の「懲戒処分の指針について」では、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げています。
その中で、自ら営利企業を営むことの承認を得る手続を怠り、これらの兼業を行った職員は、減給又は戒告とする、としています。
さらに、個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得る、ともしています。

公務員が承認または許可を得ずに不動産投資をしていた場合の標準的な懲戒処分は減給または戒告になります。
したがって、よほど大きな処分を重くする要因がなければ懲戒免職になることはありません。

懲戒免職になった事例も

もっとも、不動産投資が原因で懲戒免職となった事例もあります。

簡単に書くと、任命権者の許可を得ずに大規模な不動産投資をしていたことを理由に懲戒処分(減給10分の1(3カ月))を受けた地方公務員が、処分後に不動産投資を許可がいらない規模に縮小するように職務命令を受けました。
その地方公務員は当該職務命令に従わなかったため、改めて懲戒免職の処分を受けました。

「懲戒処分の指針について」では、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合の一つとして、「過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき」を挙げています。
本事例ではこのような事情を考慮して判断されたものと考えられます。

法的には厳しい判断だったようですが、優先されるのは懲戒権者=任命権者の判断です。
不服があれば不服申し立て、不服審査で争うほかありません。

国家公務員法第82条
職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

国家公務員法第82条

国家公務員法第84条
懲戒処分は、任命権者が、これを行う。
2 人事院は、この法律に規定された調査を経て職員を懲戒手続に付することができる。

国家公務員法第84条

地方公務員法第29条
職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
2~3 略
4 職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。

地方公務員法第29条

公務員が不動産投資で懲戒処分なんて

公務員にとって不動産投資はやりやすい副業です。
ある程度規模が大きくなっても、手続きをしておけば安全にできる数少ない副業の一つです。
その手続きを怠ったばかりに懲戒処分になってしまうなんて、もったいないとしか言いようがありません。

公務員が不動産投資を副業にするのなら、きちんと人事院の承認または任命権者の許可を得ておきましょう。