不動産投資に関連して公務員が懲戒処分を受けるケースはありますが、懲戒免職になる事例はほとんどありません。
多くが人事院の承認または任命権者の許可を得ずに不動産投資をしていたことが原因で、処分の量定は停職以下となることがほとんどです。

ただ、不動産投資が原因で懲戒免職になることもあります。


公務員の不動産投資と懲戒処分

公務員の不動産投資には一定の制限があります。
その中で最も問題になるのが、一定以上の規模の不動産投資には人事院の承認または任命権者の許可を得る必要があることです。
これを得ずに行えば懲戒処分の対象となります。

また、職務専念義務や職場のコンピュータの不適正使用が問題となる場合があります。
これらは単独でも懲戒処分の対象となりますが、承認または許可を得ない不動産投資がばれたときに併せて問題となりがちです。

懲戒処分の指針について

人事院の「懲戒処分の指針について」では、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げています。
その中で、自ら営利企業を営むことの承認を得る手続を怠り、これらの兼業を行った職員は、減給又は戒告とする、としています。

さらに、個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得る、として標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合を挙げています。

不動産投資にかかる懲戒処分の事例

近年の報道された事例を見ると、任命権者の許可を得ない不動産投資の場合には、減給10分の1(3カ月)(のちに懲戒免職)、停職6カ月といったものがあります。

減給(のちに懲戒免職)の事例

消防士が任命権者の許可を得ずに不動産投資を行っていた事例です。
マンション4棟をはじめ15物件を賃貸し、年間約7,000万円の賃料収入を得ていたところ、住民からの通報で発覚したそうです。
これに対して減給10分の1(3カ月)の懲戒処分を受けました。

その後、事業規模を許可がいらない規模まで縮小するよう改善命令を受けましたが、それに従わなかったため懲戒免職となっています。

不動産投資が原因で懲戒免職となった珍しい事例です。

これは改善命令に従わなかったことが極めて大きかったのでしょう。
「損をしてまで売るつもりはない」「兼業を禁じるのは時代に合っていない」
主張の正否は別として、処分には反抗的な職員に対して制裁を加える意味も大きかったのでしょう。
従順に従っていれば、少なくとも「ふり」だけでもしていれば違った結果になっていたかもしれません。

賃貸収入7000万円の消防士、兼業で懲戒
佐賀広域局の消防副士長

佐賀広域消防局は19日、マンションや駐車場などの賃貸収入で年間約7千万円を得ていた北部消防署警防1課富士出張所の男性消防副士長(43)に対し、兼業を禁止する地方公務員法に違反したとして減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にした。

同消防局によると、消防副士長は自己名義でマンション4棟、駐車場3カ所など15物件を佐賀市内や福岡、熊本県内などに所有、賃貸収入を得ていた。昨年の年収が約7千万円で、確定申告もしていた。昨年10月、住民からの通報を受けて発覚した。副士長は「2005年ごろから父の家業(不動産業)の手伝いで不動産の購入や賃貸をしていた」と話しているという。


佐賀新聞 2016年1月20日

賃貸収入7千万円の消防士を懲戒免職「損をしてまで売るつもりはない」
佐賀広域消防局

兼業を原則禁じる地方公務員法に違反し、約7千万円の賃貸収入を得ていたにもかかわらず、改善命令に従わなかったとして、佐賀広域消防局は31日、佐賀消防署予防指導課の男性消防副士長(44)を懲戒免職処分にした。

 消防局によると、副士長はマンションや貸店舗、駐車場など計12件を佐賀市内外に所有。同局は今年1月、7月19日までに人事院規則に沿って、個人名義の物件を、5棟10室、駐車台数10台未満、賃貸収入500万円以下に縮小するよう命令していたが、期限を過ぎても改善が認められなかった。

 副士長は聞き取り調査に、「損をしてまで売るつもりはない」「兼業を禁じるのは時代に合っていない」などと話している。


佐賀新聞 2016年9月1日

停職6カ月の事例

管理職である公務員が勤務時間中に不動産投資を行っていた事例です。
妻が代表取締役を務める会社の取締役に就き、大規模な不動産経営行い、年間約7,000万円の収入を得ていた。
勤務先のパソコンから15,000通以上の私的なメールを送るなど、勤務時間を不動産経営に充てていたそうです。
上司が不審に思い、人事課に相談したことから発覚したとのことです。

停職6カ月と、かなり重い懲戒処分となっています。
加えて降格にもなっています。

  • 営利企業の役員との兼職
  • 職務専念義務違反
  • コンピュータの不適正使用

等に加え、管理職であり職責が高かったことも考慮されたのでしょう。

また、
「マンション経営は投資で、副業の認識はなかった」
と話していたらしく、こうした態度も処分の量定上有利にはならなかったでしょう。

市職員が勤務中にマンション管理、収入数千万円に

兵庫県宝塚市は28日、勤務先のパソコンから1万5000通以上の私的なメールを送り、マンション経営をしていたなどとして、管財課の男性副課長(51)を停職6カ月の懲戒処分とし、係長に降格した。副課長は同日付で依願退職した。

市によると、全国に計10棟342戸のマンションを所有し、年間数千万円の収入を得ていた。

副課長は平成24年4月~25年6月、業務にしか使えないパソコンから特定の女性やマンション管理会社に計1万5000通以上の私的なメールを送信。自身や妻が取締役を務める会社の名義などでマンションを所有し、25年7月には太陽光発電プラントへの投資を目的とした会社を設立し、代表取締役に就任していた。

今年5月、パソコンの前を離れようとしない態度を不審に思った上司が人事課に相談して発覚した。

msn産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131128/crm13112819160013-n1.htm (記事削除)

宝塚市職員 勤務中に商談メール1万5千通 不動産ビジネス

市は送受信に要した時間を算出、勤務していなかったとみなし約42万円の返納を求めた。副課長は同日付で依願退職した。

市によると、副課長は2008、10年に妻が代表取締役を務める不動産会社の取締役に就き、神戸や大阪など10カ所に342戸の賃貸物件を所有。今年7月には太陽光発電と不動産の会社を自ら設立していた。12年度の収入は約7千万円あったという。

今年5月、頻繁にメールを打つ様子を上司が不審に感じ調査。パソコンの履歴から競売物件買い付け、賃貸料の入金確認などの内容が確認され、投資会社に対して「5億円で買い付けてください」などのメールもあった。副課長は「マンション経営は投資で、副業の認識はなかった」と話しているという。

神戸新聞 http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201311/0006532639.shtml (記事削除)

減給1/10(3カ月)の事例

不動産賃貸業を営む法人の発起人となるとともに、代表者を母親名義にして、その法人の実質的な経営を行ったとして減給1/10(3カ月)の懲戒処分となったものです。

アパート経営で副業、仙台市職員を減給処分 年600万円超稼ぐ

 仙台市は8日、不動産賃貸業を実質的に営み、副業を禁止する地方公務員法に違反したとして、市納税部の40代の男性職員を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にした。男性職員は平成20年、市内のアパート3棟を購入し、年間約600万~700万円の賃料収入を得ていた。

 市によると、男性職員は「資産運用のつもりだった。副業には当たらないと思った」などと話している。28年3月には、発起人となって不動産会社を設立。母親を代表者に据え、実質的に経営していたという。

 昨年7月、職場の上司との会話で発覚した。市は「市民の信頼を損ねたことを深くおわびする。再発防止に努める」としている。

産経新聞 平成31年2月8日
https://www.sankei.com/affairs/news/190208/afr1902080027-n1.html

株式会社等の発起人になることは地方公務員法第38条に違反しますから、その時点でばれれば懲戒処分の対象になっていました。

上司との会話で法人化して不動産投資をしていることを話してしまうのですから、本当に「資産運用のつもりだった。副業には当たらないと思」っていたのかもしれません。
しかし、そうであれば代表者を母親名義にしていたのは不自然です。

いずれにせよ、中途半端な意識でやっていたとしか思えません。

不動産投資で懲戒処分になるのはもったいない

不動産投資は公務員ができる数少ない副業の一つです。
ある程度規模が大きくなっても、手続きをしておけば安全にできる数少ない副業の一つです。
その手続きを怠ったり、面倒がったりしたばかりに懲戒処分になってしまうなんて、もったいないとしか言いようがありません。

懲戒処分にならないようにする方法はいくらでもあります。