個人事業がうまくいき、さらに事業規模を拡大しようとするときには、株式会社化が選択肢になります。
株式会社化できれば、節税できる、有限責任にできる、信用力が上がる等のメリットを享受することができます。

では、公務員が自らの事業を株式会社しようとしたとき、発起人になることはできるでしょうか。


株式会社の発起人

株式会社は設立登記をすることで成立します。
設立登記がなされるまでは株式会社成立していないので、株式会社をつくろうとする人が必要になります。

この株式会社をつくろうとする人が発起人です。
発起人は株式会社の設立を企画し、手続きを進めていく人で、資本金の出資、定款の作成、会社の組織形態、取締役等、会社設立に必要な事項を企画し、決定していきます。

発起人は1名以上で、必ず1株以上を引き受ける必要があり、会社設立後に出資した資本金の金額に応じて株式が発行され株主になります。

発起人

(読み)ほっきにん

(英語表記)promoter; incorporator; subscriber

会社の設立を企画して定款をつくり,必要な事項を記載して署名または記名押印し,事実上その発起行為にあたる者(会社法26条1項)。
株式会社の設立には 1人以上の発起人が必要であり,また各発起人は少なくとも 1株以上の設立時発行株式を引き受けなければならない(25条2項)。
発起人となる資格について法律上の制限はなく,個人のほか法人もその定款に定めてある目的の範囲内で,他会社の発起人となることができる。


コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

公務員は発起人になれない

公務員が株式会社の発起人になることは、極めて困難です。

国家公務員の場合

国家公務員は営利企業の役員等になること及び「自ら営利企業を営」むことを制限されるのが原則ですが、人事院の承認があった場合には例外として制限が適用されなくなります。
ただ、この承認は、「人事院が定める場合」しかできないとしています。

「人事院が定める場合」は、自営(「自ら営利企業を営むこと」)に関するもので、営利企業の役員等になることは該当しません。

「役員等」には発起人が明記されており、国家公務員が株式会社の発起人になることについて、人事院の承認を得ることはできないことになります。

国家公務員法第103条(私企業からの隔離)
職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
2 前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。

国家公務員法第103条

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)
人事院は、国家公務員法に基き、職員が官職以外の職務又は業務に従事する場合に関し次の人事院規則を制定する。
1 職員が営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね又は自ら営利企業を営むこと(以下「役員兼業等」という。)については、人事院又は次項の規定により委任を受けた者は、その職員の占めている官職と当該営利企業との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがなく、かつ、営利企業に従事しても職務の遂行に支障がないと認められる場合であって法の精神に反しないと認められる場合として人事院が定める場合のほかは、法第百三条第二項の規定により、これを承認することができない。
2~7 略

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について
第1項関係
 1 「営利企業を営むことを目的とする会社その他の団体」とは、商業、工業、金融業等利潤を得てこれを構成員に配分することを主目的とする企業体をいう。会社法(平成17年法律第86号)上の会社のほか、法律によって設立される法人等で、主として営利活動を営むものがこれに該当する。
 2 「役員」とは、取締役、執行役、会計参与、監査役、業務を執行する社員、理事、監事、支配人、発起人及び清算人をいう。
 3 「自ら営利企業を営むこと」(以下「自営」という。)とは、職員が自己の名義で商業、工業、金融業等を経営する場合をいう。なお、名義が他人であつても本人が営利企業を営むものと客観的に判断される場合もこれに該当する。
 4 前項の場合における次の各号に掲げる事業の経営が当該各号に定める場合に該当するときは、当該事業の経営を自営に当たるものとして取り扱うものとする。
 5 「人事院が定める場合」は、次に掲げる場合とする。
  一 不動産又は駐車場の賃貸に係る自営を行う場合で、次に掲げる基準のいずれにも適合すると認められるとき。
   (1) 職員の官職と承認に係る不動産又は駐車場の賃貸との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがないこと。
   (2) 入居者の募集、賃貸料の集金、不動産の維持管理等の不動産又は駐車場の賃貸に係る管理業務を事業者に委ねること等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること。
   (3) その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと。
  二 太陽光電気の販売に係る自営を行う場合で、次に掲げる基準のいずれにも適合すると認められるとき。
(1)職員の官職と承認に係る太陽光電気の販売との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがないこと。
(2)太陽光発電設備の維持管理等の太陽光電気の販売に係る管理業務を事業者に委ねること等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること。
(3)その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと。
  三 不動産又は駐車場の賃貸及び太陽光電気の販売以外の事業に係る自営を行う場合で、次に掲げる基準のいずれにも適合すると認められるとき。
   (1) 職員の官職と当該事業との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがないこと。
   (2) 職員以外の者を当該事業の業務の遂行のための責任者としていること等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること。
   (3) 当該事業が相続、遺贈等により家業を継承したものであること。
   (4) その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと。
 6~7 略

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について

地方公務員の場合

地方公務員の場合もほとんどの自治体で国公準拠です。
ほとんどの自治体で任命権者の許可を得られないでしょう。

詳細はそれぞれの自治体の「職員の兼業許可等に関する事務取扱規程」やその運用についての通知等を確認してください。

地方公務員法第38条(営利企業への従事等の制限)
職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。

地方公務員法第38条

参考:東京都 「職員の兼業許可等に関する事務取扱規程」

公務員は発起人になれない…が、

公務員は株式会社の発起人に、基本的にはなれません。

発起人になってもほぼばれない

ただ、公務員が株式会社の発起人になったとして、それが職場にばれることはほとんどないでしょう。
取締役のように社会保険からばれることはありません。
そもそも少ない予算の中でわざわざ調査をする職場もないでしょう。

株主であることは制限されませんから、株式会社設立後に取締役等にならなければほとんど問題にならないでしょう。

ばれなければいい、ではない

ばれなければいい、というものではありません。
公務員の考え方として適切なものではないでしょう。
ただ、ばれなければ罰を受けることはない、という現実もあるにはあります。