公務員の副業は制限されています。
その制限は厳しく、実質的には禁止されているといってもいいでしょう。
ではなぜこのように厳しい制限が課されているのでしょうか。
その理由がわかれば、何らかの対策も可能になるかもしれません。

公務員が副業禁止になっている理由

現行法建前論

日本国憲法第15条第2項で、「すべて公務員は、全体の奉仕者」であるとされ、これを受けて国家公務員法及び地方公務員法で服務規定が定められている、とされます。

日本国憲法第15条第2項
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

日本国憲法第15条第2項

国家公務員法第96条
すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。

国家公務員法第96条

地方公務員法第30条
すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。

地方公務員法第30条

国家公務員法及び地方公務員法の服務に関する規定

 国家公務員法地方公務員法
第7節 服務第6節 服務
服務の根本基準§96§30
服務の宣誓§97§31
法令及び上司の命令に従う義務並びに争議行為等の禁止§98§32及び§37
信用失墜行為の禁止§99§33
秘密を守る義務§100§34
職務に専念する義務§101§35
政治的行為の制限§102§36
私企業からの隔離§103§38
他の事業又は事務の関与制限§104§38
職員の職務の範囲§105
勤務条件§106

「全体の奉仕者」である公務員は、服務に一定の制限が加えられるのはやむを得ず、公共の利益のために勤務に専念するように私企業からの隔離や他の事業又は事務の関与制限が加えられている、というのが公務員の副業が制限されている理由のようです。

ただ、副業をしていても公共の利益のために勤務に専念することはできます。
「全体の奉仕者」というだけで副業が制限されるのはおかしいとの疑問は当然です。

現行法の実態

官吏服務紀律の「国民全体の奉仕者」

大日本帝国憲法第10条が官吏に関する規定であり、「天皇の官吏」であるとされています。

大日本帝国憲法第10条
天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ条項ニ依ル

大日本帝国憲法第10条

これを受けて公務員法に当たる官吏服務紀律が定められており、第1条で官吏は「国民全体の奉仕者」として誠実勤勉に法令に従って職務に尽くせ、とされています。
さらに第7条で私企業からの隔離が、第8条で他の事業又は事務の関与制限が定められています

官吏服務紀律
第一條  凡ソ官吏ハ國民全體ノ奉仕者トシテ誠實勤勉ヲ主トシ法令ニ從ヒ各其職務ヲ尽スヘシ
第七條  官吏ハ本屬長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ營業會社ノ社長又ハ役員トナルコトヲ得ス
第八條  官吏ハ本屬長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ其職務ニ關シ慰勞又ハ謝儀又ハ何等ノ名義ヲ以テスルモ直接ト間接トヲ問ハス總テ他人ノ贈遺ヲ受クルコトヲ得ス

官吏服務紀律(勅令第三十九號)

「天皇の官吏」であることは否定しているが

日本国憲法第15条第2項は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」として、「天皇の官吏」であることを否定しています。
憲法が変わり、公務員の服務について定める規定の名称は変わりましたが、一部の規定の内容はそのまま残りました。
副業制限に関する規定は「天皇の官吏」に対する規定であり、その点では公務員はまだ「天皇の官吏」のままなのです。

戦前戦後の公務員の性格の変化

大日本帝国憲法第10条
「天皇の官吏」
日本国憲法第15条第2項
「全体の奉仕者」
官吏服務紀律国家公務員法
第1條  凡ソ官吏ハ國民全體ノ奉仕者トシテ誠實勤勉ヲ主トシ法令ニ從ヒ各其職務ヲ尽スヘシ第96条 すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
第7條  官吏ハ本屬長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ營業會社ノ社長又ハ役員トナルコトヲ得ス第103条 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
第8條  官吏ハ本屬長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ其職務ニ關シ慰勞又ハ謝儀又ハ何等ノ名義ヲ以テスルモ直接ト間接トヲ問ハス總テ他人ノ贈遺ヲ受クルコトヲ得ス第104四条 職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。

人事院の運用次第

国家公務員の副業制限に関する規定を運用するのが人事院です。

公務員制度については、地方自治体は人事院の判断に縛られますから、公務員の副業に関しては人事院の判断がほぼすべてです。

国家公務員の副業は第103条及び第104条で制限されており、その運用に当たっては 「人事院規則14―8 (営利企業の役員等との兼業) 」 、「人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について」が定められています。

人事院規則14―8 (営利企業の役員等との兼業)


人事院は、国家公務員法に基き、職員が官職以外の職務又は業務に従事する場合に関し次の人事院規則を制定する。

1 人事院又は次項の規定により委任を受けた者は、その職員の占めている官職と当該営利企業との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがなく、かつ、営利企業に従事しても職務の遂行に支障がないと認められる場合であって法の精神に反しないと認められる場合として人事院が定める場合のほかは、法第百三条第二項の規定により、これを承認することができない。

人事院規則14―8 (営利企業の役員等との兼業)

人事院は「法の精神に反しないと認められる場合として人事院が定める場合のほかは」承認することができないとしており、人事院が法の精神を判断し、それに合致しなければ承認しないとしています。

人事院には強い外圧でもなければ、この判断を変える理由はありません。

職員の信念が副業制限を続けさせている

人事院の運用は、人事院だけがすべてを決めているのかといえば、そうとも言い切れません。
公務員の意識が副業制限を続けさせている側面もあります。

管理する側の都合

人事管理部門や管理職は副業を解禁したくはありません。
彼らは国民・住民の批判には敏感です。
というよりも、批判されるのも、批判に対応するのも、そのせいで出世が遅れるのも嫌なのです。
副業のことはよく分からないが、何か問題が起こったら対応が大変だ、だから禁止しておく。

個人の判断としては合理ではあります。

職員の信念

個々の職員の多くは、副業の解禁には賛成ではありません。
自分はできないけど、上手くいく奴が出たらくやしいのです。

役所の外側に成功があることがわかると、出世レースも先輩の権威も、役所の内部を支えていた価値観がすべて崩れてしまいます。
ポストの格の違いのような、ほんのちょっとの差にこだわる公務員にとって、外部での大成功は決して認められるものではないのです。

恐怖と嫉妬

結局、役所が変われない原因の一つは、この新規への恐怖と成功者への嫉妬です。
副業はそのどちらをも刺激してしますものなのです。

公務員の副業が禁止されている理由

公務員の副業が禁止されているのは、日本国憲法第15条第2項の「全体の奉仕者」から導き出されるものではなく、

  • 官吏服務紀律の「国民全体の奉仕者」(「天皇の官吏」)
  • 人事院の運用
  • 職員の信念

のせいなのです。

公務員の副業制限は妥当なのか

民間では副業・兼業が解禁されつつある

確かに、現行の社会保障制度の維持を目的に、労働者の所得確保策という面もありますが、民間では副業・兼業の流れが続いています。

平成30年1月、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、副業・兼業について、企業や労働者の留意点をまとめています。
さらに「モデル就業規則」を改定し、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定を削除し、副業・兼業について規定を新設しています。

副業・兼業をしたからといって、必ずしも信用失墜行為の禁止、守秘義務、職務専念義務等の服務規定が害されるものではありません。
民間でも就業規則で確保されています。

合理性が失われている公務員の副業禁止規定

すでに副業の制限については合理性を失っています。
しかし、存続が脅かされない限り、組織は自力で変わることはできません。
公務員の世界はまだ存続が脅かされるところまでは来ていません。

でも、成功は小さな村の中にではなく、外の世界にあります。
外の世界から見たら、ポストの格の違いなんてどうでもいいことです。
席次のほんのちょっとの違いに一喜一憂するラットレースに付き合う必要はありません。

陰湿できつい競争にすり減るくらいなら、外の世界に目を向けてみてはどうでしょう

どうするかはあなた次第です。