地方公務員の副業を総務省が後押しする、との報道がありました。

地方公務員の副業解禁への流れはどこまできているのでしょう。


地方公務員の副業を総務省が後押し

地方公務員の副業を後押しする旨の通知を総務省が出した、との報道がありました。

総務省が出した通知では、副業をしたくても二の足を踏む職員のために、許可基準を明確化して申請しやすくすることを要請しています。
総務省が副業の環境整備を促す通知を出すのは初めてだとのことです。

地方公務員、副業しやすく 人手不足で初の要請―総務省

 総務省は、副業を希望する地方公務員の後押しに乗り出した。報酬がある活動に参加する場合、自治体の許可が必要となるが、「公益性が高い」など、認める際の具体的な基準を示している自治体は4割未満。このため、副業をしたくても二の足を踏む職員が多いのが実情で、分かりやすい許可基準を作るよう求める通知を10日付で出した。
 同省がこうした副業の環境整備を促す通知を出すのは初めて。深刻な人手不足を受け、障害者支援など地域活動の担い手として地方公務員の活躍が期待されていることが背景にある。
 地方公務員の副業は法律で原則禁止されているが、自治体が認めれば行える。同省によると、2018年度は4万1669件の副業が許可された。神戸市や福井県、長野県が報酬を伴う地域活動への参加を促す仕組みを創設するなど、各地で副業支援の動きが出ている。
 ただ、副業を認める際の基準がある自治体は19年4月時点で39.3%にとどまる。明確なルールがないと職員は申請しにくいため、通知は具体的な基準を作るよう要請。「公益性の高い活動であること」「副業先と関わる業務を担当していないこと」などを条件としている自治体もある。透明性を確保するため、作成後の公表も求めている。
 副業には長時間労働を助長し、普段の業務に悪影響を与えるとの懸念もある。通知は副業先の仕事内容の定期的な確認も要請している。

時事ドットコムニュース 令和2年1月11日
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020011000772

総務省も「副業」を支援していこうとしています。

総務省による「副業」解禁が進められている

なお、今回の通知は総務省の既定路線です。

令和元年11月22日開催の第32次地方制度調査会第26回専門小委員会で配布された資料に「地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について」があります。

この中に、今後必要とされる対応として次のようなことが挙げられています。

(1)兼業許可制度の活用等に向けた対応

〇職員の地域活動等の兼業に対する躊躇を解消するためには、兼業許可を要するか否か、要する場合にどのような基準を満たせばよいかについて、一覧的かつ具体的に示すことが有用である。

〇このため各地方公共団体において許可基準を具体化・詳細化するとともに、これを公表することが求められる。

〇その一助として、今回の総務省の調査の結果や好事例を地方公共団体に周知していく予定である。

(2)公務の能率の確保等に向けた対応
〇一方で、兼業許可制度の趣旨・目的に鑑みれば、①公務の遂行に支障が生じる、②職務の公正を確保できない、③職務の品位を損ねるといった、兼業による弊害を未然に防止することも重要である。

〇このため、兼業先の業務の把握、定期的な許可の更新等を併せて行うよう、地方公共団体に助言していく予定である。

地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について

今回の通知は「(1)兼業許可制度の活用等に向けた対応」及び「(2)公務の能率の確保等に向けた対応」として出されたものです。。

つまり、許可基準を具体化・詳細化と併せて、兼業による弊害を未然に防止するために兼業先の業務の把握が進められることになります。

把握が進められるのは許可された副業なのか、一切の副業なのか、それは不透明です。

総務省が考えている「副業」とは

そもそも総務省が考えている「副業」と地方公務員が考えている「副業」は、必ずしも同じものとは思えません。

「地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について」を見ると、地方公務員の兼業制度の概要と実態、具体的事例が分析・記載されています。

その中で、兼業をめぐる最近の動向として、「地方公務員も地域社会のコーディネーター等として、公務以外でも活躍することが期待されるようになっている。」としています。

報道でも今回の通知の背景には「深刻な人手不足を受け、障害者支援など地域活動の担い手として地方公務員の活躍が期待されている」ことがあるとされています。

結局、地方公務員の「副業」は「地域活動の担い手」になるということなのでしょう。

全体の奉仕者が、勤務時間外には地域活動の担い手になるのです。
まさに滅私奉公、公僕です。

許可基準に基づく事例は道楽か搾取

許可基準に基づき具体的判断を示した事例として、次のものが挙げられています。

商業活性化支援(山形県新庄市)

活動内容:地元NPO法人理事長として商店街活性化の活動に従事
活動時間:年50回程度(週休日、年次有給休暇等)
報酬:月3万円程度

障がい者支援(佐賀県佐賀市)

活動内容:任意団体の代表として障がい者の支援活動に従事
活動時間:週2~3日程度(週休日、年次有給休暇等)
報酬:月2万円程度

少年少女の更生・保護を行う団体会長(岐阜県山県市)

活動内容:社会適応に悩む少年少女の更生や保護を行う団体の会長、児童相談所を訪問、相談等の支援を行う
活動時間:月1~2回程度(勤務時間外、年次有給休暇等)
報酬:日1万円程度(交通費含む)

無料学習塾の講師

活動内容:無料学習塾の学習支援補助活動
活動時間:月3回程度(講義は土曜)
報酬:日6千円程度

意識が高い公務員なら納得もするのでしょうが、普通の地方公務員にとってこれらが副業と思えるでしょうか。

どれもおおむね日当1万円未満、場合によっては実費すら賄えません。
地域活動といっても本当に必要なことであれば相応の報酬を支払うべきでではないでしょうか。

現状での「副業」は、悪い言い方かもしれませんが、金持ちの道楽または社会貢献意欲の搾取のようです。

現状の「副業」制度は維持できない

基本的に、善意に頼った制度は持続できなくなります。
現状すすめられている「副業」は立ち行かなくなるように思われます。

地方公務員の副業制限が強化される?

第32次地方制度調査会第26回専門小委員会の議題は、「人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応する観点から、求められる地方行政体制のあり方について」というもので、その一項目として「公共私の連携(地域コミュニティを支える取組)について」がありました。

人口減少する社会で、現在の地域のまま維持しようとする抵抗に地方公務員を動員しようとするものとしか読めません。
それに低コストで地方公務員を動員しようとする仕組みのようにしか見えないのです。

しかも、任命権者が副業先の業務を把握することも通知されています。
低報酬の活動以外はできなくなり、もし副業がばれれば懲戒処分になります。

副業解禁というよりも、制限強化になるかもしれないのが現状です。

意識高い系の公務員にとっては歓迎すべきことなのでしょうが、自己の保全にすら不安を感じている地方公務員にとっては頭の痛くなる話です。

副業解禁されないから何もしないでいい?

地方公務員の副業解禁はすぐではなさそうです。

制限されている以上、副業を今すぐはじめなさい、というつもりはありません。
でも、副業解禁に備えて、今から準備はしておいていいのではないでしょうか。

遠い先だから、何も準備しないでいいことにはなりません。
将来副業が解禁されたとき、万全の準備ができている人と何もしていなかった人の差は大きくなります。