ついに公務員の副業が解禁!?

公務員の副業は制限されています。
一部を除いて禁止されているといっていい状態です。

しかし、ここにきて公務員の副業に関する動きが活発になっています。
兵庫県神戸市の新制度や奈良県生駒市の新基準の制定、政府の「未来投資戦略2018」の閣議決定と、公務員の副業に追い風となるような流れがあります。

時代の趨勢は公務員の副業解禁の方向にあるのは確かでしょう。
では、このまま一気に近いうちに副業が解禁されるでしょうか?

改めて現状を確認します。


公務員の副業は制限されている

国家公務員の場合

国家公務員法
§103(私企業からの隔離)職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
第2項前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。
§104(他の事業又は事務の関与制限)職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。

国家公務員法の副業制限の説明

§103営利企業役員×
営利企業を営む×
第2項人事院の承認→○
§104内閣総理大臣等の許可がない⇒
 報酬を得て役員×
 報酬を得て従事×
(言い換えると)
報酬を得て役員または報酬を得て従事⇒
 内閣総理大臣等の許可が必要

地方公務員の場合

地方公務員法
§38(営利企業等の従事制限)職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない

地方公務員法の副業制限の説明

§38任命権者の許可がない⇒
・営利企業役員になる×
・営利企業を営む×
・報酬を得て従事×
(言い換えると)
営利企業の役員になる、営利企業を営む、報酬を得て従事⇒
・任命権者の許可が必要

公務員の副業制限を緩和する制度

こうした厳しい制限を緩和する動きが活発になっています。
次のものは有名です。

兵庫県神戸市 「地域貢献応援制度

市の職員が、職員として培った知識・経験等を活かして、市民の立場で地域における課題解決に積極的に取り組めるよう、その後押しをすることを目的として、営利企業への従事等のうち社会的・公益性の高い継続的な地域貢献活動に、報酬を得て従事する場合の取扱いを定めたもの

http://www.city.kobe.lg.jp/information/shokuinsaiyou/saiyou/system.html(削除済み)

奈良県生駒市 「報酬を得て地域活動に従事する際の基準」

生駒市では、職員の地域活動への積極的参加を促進し、公共性のある組織で副業に就きやすくするため、職員が職務外に報酬を得て地域活動に従事する際の基準を定めます。
(中略)
公務員という職業柄から報酬等の受け取りに抵抗があり、NPO活動や子どもたちへのスポーツ指導などの地域活動への参加を妨げる一因となっていました。
今回の明確化により、職員が地域活動に励み、市民との参画や協働によるまちづくりがより一層活発になることを目指します。

http://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10588/jinji_170718.pdf(削除済み)

なお、生駒市は職員による職務外での地域貢献活動をさらに応援するため、平成30年8月1日に基準を一部改正し、対象職員や活動地域の範囲を大幅に広げています。

地域貢献活動を行う職員の営利企業等の従事(副業)の促進について(https://www.city.ikoma.lg.jp/0000010732.html

地域貢献活動を行う職員の営利企業等の従事制限の運用について(https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10732/180801-01a.pdf

「未来投資戦略2018」

国家公務員については、公益的活動等を行うための兼業に関し、円滑な制度運用を図るための環境整備を進める。

(「未来投資戦略2018」p.108 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf

ただし、全157ページのうちのたった2行書かれただけです。しかも位置づけは、

第2 具体的施策
II.経済構造革新への基盤づくり
[1]データ駆動型社会の共通インフラの整備
2.AI時代に対応した人材育成と最適活用
2-2 人材の最適活用に向けた労働市場改革
(3)新たに講ずべき具体的施策
ii)生産性を最大限に発揮できる働き方の実現
⑤多様で柔軟なワークスタイルの促進

の一項目として書かれています。

公務員の副業制限緩和制度の事例

では、こうした制度の具体的な事例はどのようなものなのでしょう。

兵庫県神戸市「地域貢献応援制度」

営利企業への従事等のうち社会的・公益性の高い継続的な地域貢献活動

重要文化財「旧トーマス邸(風見鶏の館)修繕工事や重伝建「旧ドレウェル邸(ラインの館)」の修復(工事文化庁の「NPO等による文化財建造物管理活用の自立支援モデル検討事業」に採択)に時間外等の業務で参加。

http://www.city.kobe.lg.jp/information/shokuinsaiyou/saiyou/system/interview04.html(削除済み)

有志活動するNPO。車いすでも砂浜を走行できるビーチマットと水陸両用車いすを資金調達して購入し、多様な関係者やボランティアで環境を整備。
「給料については公表を控えさせていただくが、食事代くらい」

https://kobe.keizai.biz/headline/3013/

奈良県生駒市 「報酬を得て地域活動に従事する際の基準」

要件

  • 公益性が高く、継続的に行う地域貢献活動であって、報酬を伴うもの
  • 生駒市の発展、活性化に寄与する活動であること
  • 報酬は、地域貢献活動として許容できる範囲であること

対象

NPO活動や子どもたちへのスポーツ指導などの地域活動への参加等

http://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000010/10588/jinji_170718.pdf(削除済み)

「未来投資戦略2018」

具体的事例の言及はありません。
公益的活動「等」としていること、多様で柔軟な「ワークスタイル」の促進の施策であることが特徴になります。

公務員の副業は解禁されるか

すぐには解禁されない

現状では公務員の「副業」が直ちに解禁になる可能性は高くありません。

現状では子どもたちへのスポーツ指導や食事代くらいの報酬で大騒ぎしているのです。
それが「副業」なのでしょうか。
常識的な社会参加の範疇で、問題視する方が問題なのではないでしょうか。

「未来投資戦略2018」では公益的活動「等」としていること、多様で柔軟な「ワークスタイル」の促進の施策であることから、より拡大されたものになる可能性はありますが、営利活動にまで拡大するとは考えられません。
あるとすれば、キャリアや大学教員が民間企業の役員と兼業する場合くらいではないでしょうか。

いずれにしても、制限が緩和されるのは「副業」のイメージには合わないものになりそうです。

運用での緩和の可能性は?

公務員であればもちろんご存知、より重要なのは運用です。
制度が限定的であっても、柔軟な運用で実質的な拡大がされる場合もあります。

しかし、団体にもよりますが、新制度や新基準の運用は厳格なものになるでしょう。
当分は厳格に運用して、その間に実績が上がらず、再度緩和した基準を定めることになるでしょう。

そう考えられる理由はいくつかあります。

公務員の副業の制限が緩和されない理由

「全体の奉仕者」論(建前中の建前)

「公務員はすべて国民全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない(日本国憲法§15-2)」ので、私企業からの隔離し、他の事業又は事務の関与を制限しなければならない。
公務員は全体の奉仕者であり、公務以外ではすべて無償で奉仕すべきである。
これを緩和するものであるから、新制度・新基準は十分な検討のうえで定められたものであり、運用で拡大する必要はない。
したがって、厳格に運用されるべきである。

前例主義(建前の本音)

新制度・新基準ができたからといって、前例との均衡を保つ必要はある(ちょっと前に懲戒処分したような案件を許可できない。)。
だから、厳格に運用されるべきである。

事なかれ主義(本音)

国民、住民に文句を言われたら面倒だし、後で責任に問われるくらいなら許可しない方がいい。
新制度・新基準に明確にあてはまるものは仕方がないが、それ以外は認めない方がいい。
だから、厳格に運用されるべきである。

嫉妬と恐怖(本音の本音)

上手くやるやつが出てくるのは許せないし、自分たちが無価値だと気づくのが怖い。
上が言ってくれば認めるけど、上手くやるような奴を手伝いたくはない。
だから、厳格に運用されるべきである。

組織の行動原理として、運用を厳格にする理由はいくらでもあります。
逆に拡大して運用していくインセンティブはほとんどありません。

トップが真剣やろうとしない限り、運用拡大の可能性はありませんし、批判を覚悟してまで公務員の副業制限の緩和に政治的資源を投入しようとする政治家はいないでしょう。

近いうちに公務員の副業が解禁になるとすれば

近いうちに公務員の副業が解禁されるとすれば、それは公務員の生活を保障制度が破綻した場合でしょう。
生活保障できないから、自分の力で稼いで来い、ということです。

発生可能性はとても低いですが、長い目で見れば起こらないとも限りません。

今の生活がいつまで保障されるとお思いですか?
生活保障がなくなったらどうしますか?

副業があればそうした緊急事態にも対応できます。
公務員の副業解禁まではしばらく時間がありそうです。
家族を、自分自身を守るために、何らかの準備だけはしておく必要があります。