治験は、効率のいいアルバイトとして、都市伝説的に語られることあります。
学生時代等に耳にしたことがあるのではないでしょうか。

実際のところ、治験を副業のように使うことはできるのでしょうか。


治験と公務員の副業

治験とは

治験は、「薬の候補」を健康な成人や患者さんに使って、効果や安全性、治療法等を確認するためにする臨床試験です。

治験は、実際に治療中の患者さんだけでなく、健康な成人のボランティアも参加することができます。

治験に参加すると生活上の負担や経済的な負担が増えることがあります。
これを軽減するために「負担軽減費」や「治験協力費」等の名目で金銭が支払われることがあります。
通院の場合、1回7,000~10,000円程度といわれ、決して高額ではありませんが、拘束時間が長くはないので「割りがいい」かもしれません。

治験は3つの段階を踏んで行われます。

第1段階(第Ⅰ相試験)

少人数の健康な成人ボランティアまたは患者さんに対して「治験薬」の安全性等を調べる段階です。

第2段階(第Ⅱ相試験)

少数の患者さんに「治験薬」を使ってもらい、効き方、使い方や副作用などを調べる段階です。

第3段階:第Ⅲ相試験

多数の患者さんに「治験薬」を使ってもらう段階です。

このうち、普通の公務員が参加するとすれば第1段階(第Ⅰ相試験)でしょう。

治験は人権や安全性に配慮されている

治験については、大昔は「逃げられない山奥の医療施設でひっそり行われている」などと都市伝説的に語られることもありました。
しかし、現実の治験はそのようなものではありません。

治験については法律のほか「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」が定められていて、製薬会社、病院、医師等はこれを守らなくてはなりません。
インフォームドコンセントも義務付けられているので、治験参加者の意思に反したことはできない仕組みになっています。

治験と公務員の副業制限等

公務員の副業制限

公務員の副業は制限されています。
公務員本人が営利企業を経営することはもちろん、報酬を得て営利企業の業務に従事することにも制限があります。

公務員は所属庁の長または任命権者の許可を得なければ、報酬を得て営利企業の事業・事務に従事することはできません(国家公務員法第104条、地方公務員法第38条)。
これ胃に違反すると懲戒処分の対象となります(国家公務員法82条、地方公務員法第29条)。

したがって、副業制限に反しないためには、

  • 報酬を得ない
  • 営利企業の事業・事務ではない
  • 所属庁の長または任命権者の許可を得る

のいずれかを満たす必要があります。

報酬を得ない

報酬を得なければ、公務員の副業制限に違反しないことになります。
しかし、治験を副業と考えていたとすると、報酬がなければ参加する意味がなくなります。

この点、通説的には、報酬とは、労務、労働の対価として支給あるいは給付されるもので、労働を提供することに対して双務契約に基づき支払われる反対給付をいいます。
ただし、謝金、実費弁償にあたるものは含まれません。

治験の負担軽減費

治験で支払われる「負担軽減費」等は、労働の対価ではなく、労働契約等の双務契約に基づかないのが通常です。
名目どおり、謝金、実費弁償としての性格が強いものと考えられます。

また、金額面について「報酬」にあたるのは、社会通念上相当と認められる程度を超える額である場合としています(「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(平成31年3月28日付け閣人人第225号))。

1通院あたり7,000~10,000円は判断が分かれるかもしれませんが、社会通念上相当と認められる程度の額と考える余地は十分あります。

以上から、通常の場合、治験は「報酬」を受け取るものではないと考えることができるでしょう。

負担軽減費等の注意点

ただし、「負担軽減費」等が極端に高額な場合にはこの限りではないでしょう。

また、本省課長補佐級以上の職員は、1件5,000円を超えた場合には贈与等報告書提出が必要になることに注意が必要です(国家公務員倫理法第6条)。

営利企業の事業・事務ではない

医療法人については、非営利目的の活動実績の確認等ができれば、非営利企業に該当するものとされます(「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(通知)(平成31年3月28日付け閣人人第225号)))。

治験を実施するのは医療法人ですから、所属庁の長または任命権者の許可は不要ということになります。

しかし、「負担軽減費」等が治験ボランティアの募集業者を通して支払われる場合には、所属庁の長または任命権者の許可が必要になることがあります。

募集業者は通常、株式会社等の営利企業ですから、営利企業の事業・事務に従事したことになりかねないからです。

所属庁の長または任命権者の許可を得る

通常の場合、治験で医療法人から「負担軽減費」等を受け取っても、所属庁の長または任命権者の許可を得る必要はありません。

ただし、治験から報酬を得、かつ、その支払いが営利企業である募集業者からされる場合には、所属庁の長または任命権者の許可が必要なことがあります。

しかし、この許可を得ることは難しいと考えられます。
治験は、副業の不許可基準の一つ「心身の著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を与えると認められるとき」に該当すると考えられるからです(「職員の兼業許可について」(昭和41年2月11日付け総人局第97条))。

「負担軽減費」等が支払われるのですから、負担がないということはできないでしょう。
以上から、通常の場合、治験で医療法人から「負担軽減費」等を受け取っても、所属庁の長または任命権者の許可を得る必要はないといえるでしょう。

職務専念義務

公務員は、法律・命令・条例等に特別の定がある場合を除いて、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、職務にのみ従事しなければなりません(国家公務員法第101条、地方公務員法第35条)。

勤務時間中はもちろん、勤務時間外であっても、職務に支障を生じるような行為は制限されます。

治験については判断が分かれるところでしょう。

勤務時間中に参加することは論外ですが、勤務時間外であっても心身の安全を図らなければならないので、治験のように危険が伴うことをしてはいけないと考えることもできます。

いくら安全性に配慮されているといっても、治験にはリスクがあるからです。

しかし、治験の社会的な意義を理解し、貢献するために参加することまで禁止にはできないでしょう。

治験は誰かがやらなくてはいけないことですし、公共・公益的に大きな意味がある活動です。
駅前で啓発ビラを配るより、ずっと大きな意味があるのではないでしょうか。

それに、危険が伴うことが禁止されるのであれば、週末のスポーツも自動車の運転も、多くの活動ができなくなってしまいます。

治験については、通院等が勤務時間外である等勤務に支障が生じないものであれば、職務専念義務に違反しないと考えられます。

公務員も治験に参加できるが

以上から、通常、公務員であっても治験に参加し、「負担軽減費」等を受け取ることが合法的にできると考えられます。
人によっては副業のように使うことも可能かもしれません。

ただ、気をつけなくてはいけないこともあります。

公務員の治験参加のリスク

治験にはリスクがある

治験には健康上のリスクがあります。
いくら安全性に配慮がされているといっても、リスクを排除することはできません。

健康被害補償として医療費、医療手当及び保証金等も用意はされているでしょうが、健康を完全に取り戻せるかはわかりません。

最悪の場合、命にかかわることにもなりかねません。

懲戒処分になることも

単なる報酬目当てで治験を受けていた場合、懲戒処分を受けるおそれもあります。

「負担軽減費」等の金額や募集業者との契約関係によっては、副業制限違反と判断されることがあるかもしれません。
また、職務に及ぼす影響等によっては、職務専念義務違反に該当するとされることもあるでしょう。
さらに、治験参加の状況等によっては、信用失墜行為とされることもあるかもしれません。

ちょっとしたお小遣い稼ぎのつもりが、取り返しのつかないことになるかもしれないのです。