
公務員がFXをしても、すること自体が問題になることはありません。
預貯金や株取引と同様、資産運用・利殖の手段であって、国家公務員法第103条及び第104条、地方公務員法第38条で制限される副業にはあたりません。
公務員個人が資産運用・利殖の範囲でFXをすることに、人事院の承認または任命権者の許可は不要です。
公務員のFXは副業あたらないが
公務員のFXが問題になる場合
ただし、公務員がFXをすることが問題になる場合がいくつかあります。
職務専念義務違反
勤務中に取引を行ったり値動きを確認したり、取引が時間外であっても勤務に支障を及ぼすことがあったりすると、職務専念義務に違反することになります。
職務専念義務は国家公務員法第96条、地方公務員法第30条に明文化されており、これに反すると懲戒処分の対象になります。
実際にFXに関連して懲戒処分を受けているのも職務専念義務違反の場合です。
営利企業等の役員等の兼務
FXを法人化して行うと、これも国家公務員法・地方公務員法に違反します。
法人の役員になると、これは営利企業等の役員等の兼務にあたり、国家公務員法第103条、地方公務員法第38条に違反します。
役員等の兼務がばれれば懲戒処分の対象になります。
また、実質的に公務員が取引を行い、そこから報酬を得ていた場合には、これも懲戒処分の対象になり得ます。
他法律に違反する場合
このほか、国家公務員法及び地方公務員法以外の法律に違反した場合にも問題になります。
例えば、他人の資金を運用するような場合も考えられます。
これは金融商品取引法に違反することになり、信用失墜行為にもなりますから、国家公務員法第101条、地方公務員法第33条に違反したものとして懲戒処分の対象となります。
公務員がFXで懲戒処分に
懲戒処分は、職員に非違行為があったとき、その職員に対する制裁としてなされる処分をいい、軽いものから次のものがあります(国家公務員法第第82条、地方公務員法第第29条)。
- 戒告
- 減給
- 停職
- 免職
懲戒処分は懲戒権者(=任命権者)の裁量行為ですが、職員の身分保証に重大な影響を及ぼすことから、処分基準を定めています。
懲戒処分の標準例
人事院が「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)」を出しており、懲戒処分の類型とその標準例を挙げています。
これによれば、勤務態度不良による処分の標準例として、「勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする」としています。
また、兼業の承認等を得る手続のけ怠として、「営利企業の役員等の職を兼ね、若しくは自ら営利企業を営むことの承認を得る手続又は報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員等を兼ね、その他事業若しくは事務に従事することの許可を得る手続を怠り、これらの兼業を行った職員は、減給又は戒告とする」としています。
信用失墜行為については、標準例はありませんが、「標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する」として、他の標準例を参考にして処分の軽重が決められることになります。
ただし、懲戒処分の標準例は絶対的なものではなく、「適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする」ともしています。
FXが原因の懲戒処分
国家公務員が勤務時間内にFXの取引等を行ったことを理由とする懲戒処分では、減給または戒告が標準で、事情を考慮して処分の軽重が決められます。
法人化して取引を行ったことを理由とする懲戒処分では、減給または戒告が標準で、事情を考慮して処分の軽重が決められます。
他の法律に違反した場合には、諸事情を総合的に考慮して判断されることになります。
地方自治体によりますが、地方公務員の場合も同様のものとなるでしょう。
FXが原因の懲戒処分の具体的事案
実際にFXを勤務時間中にしていたために懲戒処分になった事案があります。
勤務中にスマホで株、FX 国税調査官を懲戒処分 4年半で2291回「ほとんど損失」
産経新聞 平成30年6月8日
東京国税局は8日、勤務中にスマートフォンで株取引や外国為替証拠金取引(FX)を計2291回したとして、千葉県内の税務署で資産課税部門に所属する男性国税調査官(35)を同日付で減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にしたと明らかにした。
調査官は平成25年1月~昨年7月、庁舎内のトイレや出張中の電車内で、スマートフォンで証券会社のサイトにアクセスしていた。取引の結果はほとんどが損失でインサイダー取引はなかった。調査官は「自制心が働かずやってしまった」と反省しているという。
https://www.sankei.com/affairs/news/180608/afr1806080026-n1.html
減給10分の1(3カ月) ですから、標準例の範囲内の懲戒処分です。
報道によれば、FXだけでなく、株取引もしていたようです。
インサイダー取引はなかったようですから、職務専念義務違反に対する懲戒処分と考えていいでしょう。
また、目を引くのは、取引のほとんどが損失だったということです。
損失のせいで正常な判断ができなかったのでしょう、損を取引で取り戻そうとして後戻りができなくなったと考えらます。
職務専念義務に利益や損失の大小は関係ないですから、この点は考慮されなかったようです。
また、令和5年5月にも減給の懲戒処分となった例があります。
勤務中にFX取引繰り返したか 職員2人減給処分 東京国税局
勤務時間中にスマートフォンで、FX取引を3000回余り繰り返していたなどとして、東京国税局は19日、都内の税務署に勤める職員2人をいずれも減給の懲戒処分にしました。
減給の懲戒処分を受けたのは、いずれも都内の税務署に勤務する42歳と60歳の職員です。
東京国税局によりますと、42歳の職員は、去年9月までのおよそ9か月間、勤務時間中に税務署のトイレなどでスマートフォンを使って、あわせて3000回余りFX取引を繰り返したほか、60歳の職員は去年9月までのおよそ2年半に渡って勤務時間中にスマートフォンで暗号資産や株の取引をあわせて450回余り行うなどしていたということです。
FX取引を繰り返していた42歳の職員は国税局の調査に対し、「取引の機会を逃さず、利益を得たいと思った」などと話しているということです。
東京国税局は、国家公務員の信用を失墜する行為だなどとして、いずれも19日付けで42歳の職員を減給10分の2、3か月、60歳の職員を減給10分の1、3か月の懲戒処分にしました。
NHK 令和5年5月19日
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20230519/1000092690.html
こちらは減給10分の2(3カ月)となっています。
前述の例に比べて重くはなっていますが、標準例の範囲内での処分です。
FXで懲戒免職にはほぼならない
したがって、公務員がFXを理由に懲戒処分が科されるとしても、他に重大な他の法律違反をしない限り、懲戒免職となることはないでしょう。
公務員は職務専念義務を遵守
現実問題として、法人化して取引することや他の法律に違反することはほとんどありません。
大事なのは職務専念義務を守ることです。
公務員がFXをすること自体には問題ありませんが、勤務中は職務に専念することが大前提です。
勤務時間内にFXの取引をして、職場にばれれば懲戒処分の対象です。
懲戒免職にならなくてもペナルティを受け、職場にいられなくなることもあります。
そうならないように、FXは職務専念義務に違反しないよう気をつけましょう。