公務員が転売をしても大丈夫なケースも考えられますが、転売ヤーともなると話は別です。
ばれれば懲戒処分の対象となりますし、場合によっては逮捕・処罰されるおそれすらあります。

では、大丈夫な転売とそうでない転売、境目はどこにあるのでしょうか。


公務員でも大丈夫な転売とは

転売ヤーとは

転売ヤーは、転売で利益を得ることを目的として商品を購入、高値で販売することを継続的に行う人のことです。
正規価格での商品の流通を妨げる存在として、批判の対象ともなっています。

転売ヤーという言葉自体にネガティブなイメージがあるとおり、公務員が転売ヤーとなることには問題があります。
ばれれば懲戒処分の対象ですし、場合によっては逮捕されることもあります。

転売が禁止・制限される場合

公務員にも財産権は保障されているので、財産の取得や処分は原則自由です。

ただし、法令で取得や処分が禁止されていたり、制限されている場合があります。
また、公務員には服務上の義務があり、一部の経済行為が制限され、これに違反すると懲戒処分の対象となることがあります

法令による転売禁止・制限

チケット不正転売禁止法

「チケット不正転売禁止法(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律)」が令和元年6月14日から施行されています。

不正転売または不正転売を目的としてチケットを譲り受けた場合には、1年以下の懲役、100万円以下の罰金またはその両方が科せられます。

今後チケットの転売には注意が必要です。
そもそも転売目的では入手もしないようにしなければなりません。

古物営業法等

一旦一般消費者の手に渡った物品を転売買して営業を行う者は、古物営業法に基づく古物商許可を受ける必要があります。

古物商許可を得ずに反復継続して転売買営業を行っていれば、古物営業法違反で逮捕されることがあります。

その他法令上の制限

酒類の販売にあたって酒類販売業免許が必要になる等、免許等が必要な物品もあります。

公務員の服務上の義務

公務員には全体の奉仕者として副上の義務が法定されていて、これに違反すると懲戒処分の対象となることがあります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

公務員の副業制限

公務員は全体の奉仕者であって、服務上の義務として一定の制限が課されています。
その一つとして、公務員の副業は制限されています
自ら営利企業を営むことは、人事院の承認または任命権者の許可を得なければ行うことはできません(国家公務員法第103条、地方公務員法第38条)。

信用失墜行為

公務員の場合、法律違反にならない行為であっても信用失墜行為とされることがあります(国家公務員法第101条、地方公務員法第33条)。

転売ヤーへの社会的な批判はどんどん強くなっています。
世間的には、本当に必要とする人に商品等が届くのを邪魔して、法外な利益を得ているとして、蛇蝎のように嫌われています。
そんな声に応えるように取り締まりも強まりつつあります。

転売ヤーであることが、信用失墜行為となる可能性は十分あります。

反復継続する意思の有無が分ける

公務員であっても転売がまったくできないわけではありません。

転売ヤーにならないような形の転売、つまり反復継続する意思のない単発の転売であれば処罰も懲戒処分も受けることはありません。

自己利用の目的で安価で購入したものを、正規価格と同程度で単発的に転売したような場合は問題にはならないでしょう。

チケット不正転売禁止法や酒税法等も、業としての販売を規制の対象としているのであって、反復継続の意思がなければ法令に違反しません。

副業制限違反になるのも自ら営利企業を営んだ場合で、反復継続の意思がなければ該当しませんから、懲戒処分となることもありません。

転売価格があまりに高額な場合は信用失墜行為にならないとは言い切れません。
しかし、取引が法令に違反せず、当事者が合意している限り、信用失墜行為になるおそれはほぼないでしょう。

結局、大丈夫な転売とそうでない転売を分けるのは、反復継続する意思の有無ということになります。

ただし、懲戒処分の手続きで反復継続する意思の有無を判断するのは懲戒権者です。
職員が意思がなかったと主張しても、懲戒権者が意思があったと判断すれば懲戒処分になってしまうことには注意が必要です。

公務員転売ヤーは危険がいっぱい

合法的な転売ヤーは制限が多い

チケットの不正転売については、チケット不正転売禁止法により処罰されます。
公務員がチケットの不正転売で逮捕されることにもなっています。

商品の転売を反復継続して行う場合には、古物商免許を得なければ古物営業法違反となります。
さらに、その他販売等にあたり免許等が必要なものもあります。

したがって、転売ヤーとなるには、古物商免許を取得したうえで、チケットの不正転売等法令違反にならない物に限って転売をすることが必要です。

合法的な公務員転売ヤーは懲戒処分対象

しかし、転売ヤーとしては合法になれたとしても、公務員であると懲戒処分を受けることがなります。

古物商の免許を取得した時点で反復継続の意思はあったと判断されます。
公務員が古物商免許を取って転売ヤーとなると、自ら営利企業を営むことになるので、公務員の副業制限に抵触します。
公務員本人が行ったと客観的に判断されれば、他人名義で行ったとしても懲戒処分を免れることはできません。

これらに該当しなかったとしても、取引の態様等によっては信用失墜行為と判断されることもあります。

公務員が転売ヤーになることは、法令違反になるおそれがあり、転売する物品によっては処罰の対象となることもあります。
合法的にしようとしても、国家公務員法・地方公務員法に違反することになり、懲戒処分の対象とります。

公務員転売ヤーはどうやっても合法的にできない、処罰や懲戒処分の対象となる危険なことなのです。

転売で懲戒処分となった事例

転売で懲戒処分となった事例が報道されています。
これらから公務員が転売をする怖さがよくわかります。

チケットを転売した事例(停職3カ月)

大津市職員が互助会チケット転売 差額でもうけ 

 大津市は8日、転売目的で市職員互助会を通じて水族館の割引チケットを購入したとして、未来まちづくり部の男性主任(30)を、停職3カ月の懲戒処分にした。

 市によると、男性主任は、2月10日から5月27日にかけて、市職員互助会を通じ、1枚あたり900円で販売されている名古屋市内の水族館のチケットを29回に渡り、計1110枚購入し、妻がインターネット上で物品を売買するフリマアプリで1枚あたり約1500円で少なくとも990枚転売した。互助会から福利厚生サービスを委託されている会社から市に通報があり、発覚した。

産経WEST 令和元年8月9日
https://www.sankei.com/west/news/190809/wst1908090011-n1.html

公務員本人が約3カ月間に29回1,110枚のチケットを900円で購入し、妻名義で1枚1,500円で990枚以上転売していたものです。

この事例では、転売目的であったことと反復継続性は明らかです。
1,110枚を自己利用目的で購入することはあり得ませんし、販売も反復継続するものであることは明確です。

規模は999,000円の仕入で1,485,000円以上の売上、大規模とまではいえませんが事業的規模といっていいでしょう。

以上から、任命権者の許可を得ずに自ら営利企業を営んだとして、懲戒処分を受けています。

挽回するチャンスはほとんどない

懲戒処分を受けたのは30歳の主任とのことです。
これから、という言葉がぴったりの職員です。

停職3カ月と重い処分を受けてしまった以上、これからの公務員生活にあまり多くの希望は残っていないでしょう。

昇給は遅れますし、昇進は難しくなっています。
挽回するチャンスもほとんど回ってこないでしょう。

これから30年以上、晩年を過ごすことになるのです。

そこから早く抜け出すことをすすめたくなります。

スニーカー等を転売した事例(減給1/10(6カ月))

伊勢市職員ネットオークションで約1900万円利益で減給

ネットオークションによる転売で、約1900万円の利益を得る副業を行っていたとして、伊勢市は、40代の職員を減給の懲戒処分としました。

懲戒処分を受けたのは、伊勢市会計課に所属する45歳の係長級の職員です。
市によりますと、この職員は、平成25年から去年9月までの9年間、みずから購入したスニーカーなどを、ネットオークションで繰り返し転売し、あわせて約1900万円の利益を得ていたということです。
市は、職員がスニーカーなどを販売目的で購入し、長期間にわたって利益を得ていたことから、地方公務員法で禁止される副業にあたるとして、10日付けで、減給10分の1、6か月の懲戒処分としました。
市によりますと、収入の申告漏れの疑いを税務署から指摘された職員が、市に報告して発覚したということで、職員は、市の調べに対して「副業にあたると思っていなかった」と話しているということです。
伊勢市職員課は「市民の皆さまの信用を損なうことになり、誠に残念で申し訳なく思っております。職員の法令順守を徹底し、服務規律の確保に努めていきます」としています。

NHK 三重 NEWS WEB 令和5年2月10日
https://www3.nhk.or.jp/lnews/tsu/20230210/3070009877.html

9年間で約1,900万円、1年あたり200万円強です。
利益が大きかったかどうかは判断が分かれるところでしょうが、45歳会計課の係長が受けるペナルティとしては大きかったといわざるを得ません。

減給される分だけでなく、昇給、退職金、再雇用まで考えると、約1,900万円が釣り合うものになるとは思えません。

また、直近の生活もいくらか厳しいものになります。
勤め続けようと思うのであれば、転売をするわけにはいきません。
200万円の減収は生活に相当な影響を及ぼすことになるでしょう。

チケット転売以外でも懲戒処分の対象

チケット転売だけでなく、転売行為は懲戒処分の対象になりえます。
この事例では9年間に1,900万円の利益を上げていたので、反復継続性と事業的規模の両方を満たしていると判断されても仕方がありません。
しかも、収入の申告漏れがあったのですから、処分の量定が重くなっても当然でしょう。

本人は趣味の延長のつもりで、副業にあたると思っていなかったとしても、転売行為がばれれば懲戒処分の対象となりえます。

転売で逮捕された事例

チケット不正転売禁止法違反で逮捕された事例

チケット不正転売容疑、○○職員を逮捕 3200枚転売か

 プロ野球オールスターゲームのチケットなどをインターネットを通じて高値で転売したとして、警視庁は、○○○○○○職員の○○〇〇容疑者(35)=東京都○○区○○〇〇丁目=をチケット不正転売禁止法違反の疑いで逮捕し、28日発表した。調べに「出世していく同期との給与の差を埋めたかった」などと供述しているという。

 同法は、転売禁止が券面に明記されているなどの要件を満たしたチケットを「特定興行入場券」と規定。東京五輪・パラリンピックを控え、ネット上での転売行為を取り締まれるようにする狙いで制定された。6月の施行後、逮捕は全国初という。

 生活安全特別捜査隊によると、○○容疑者は7~10月、転売サイトを通じ、特定興行入場券であるオールスターゲームと宝塚歌劇団の公演のチケット計4枚を、定価を3万円以上上回る計5万6500円で不正に転売した疑いがある。

 ○○容疑者はほかに、日本シリーズなど特定興行入場券にあたるプロ野球のチケット16枚を出品していたという。さらに、同券に当たらないものの2012年3月以降、福山雅治さんや西野カナさん、EXILE、ゆずなどの公演チケット約3200枚を計約4700万円で転売したことも同庁は確認しており、引き続き調べる。

朝日新聞 令和元年11月28日(一部伏字)
https://www.asahi.com/articles/ASMCX3Q1FMCXUTIL00C.html

(同情するわけではありませんが、違反者であっても個人が他人の個人情報を公開することに躊躇がありますので、伏字としました。関心のある方は図書館等で確認してください。)

普通の公務員ではいられない

報道どおりであるなら、行為自体は同情の余地なくチケット不正転売禁止法違反です。

2012年3月以降転売を繰り返し、約3,200枚、転売総額も約4,700万円と高額です。
きちんと納税していたかも気になります。

公務員の世界は一罰百戒、相当な制裁があることが予測されます。
実名報道もされてしまった以上、懲戒免職にならなくても周囲の厳しい目の中で公務員を続けることは難しいのではないでしょうか。

同情するわけではありませんが、どうしてこんなことになったのか、とても残念です。

「出世していく同期との給与の差を埋めたかった」との言葉が悲しいです。

【追加情報】令和2年3月に停職3カ月の処分、懲戒免職にはなっていません。

(2020年未確認情報:同自治体職員の情報では、この職員は職場復帰しているとのことです。厳しい目の中勤務をしているとすると、なかなかに肝の据わった職員のようです。)

公務員は転売ヤーになってはいけない

転売ヤーは正規価格での商品の流通を妨げる存在として、社会的に強い批判を受けています。
同時に、公務員に公正さを求める声はますます強くなっています。

ただでさえ合法的に行うことができない公務員転売ヤーです、ばれたときには社会的な批判や要請から、重い懲戒処分になるおそれが強くなっています。

公務員は転売ヤーとならないよう、少なくともばれることがないように慎重にならなくてはなりません