賃貸経営はメリットとデメリットの両面があります。
しかも、公務員には公務員特有のメリットとデメリットもあります。
賃貸経営で失敗しないためには、メリットだけでなくデメリットを事前に把握し、対策しておくことが重要です。
目次
賃貸経営のメリットとデメリット
賃貸経営には多くのメリットがあると喧伝されています。
主な賃貸経営のメリットとしては次のようなものが挙げられます。
- 長期的な家賃収入
- 年金の代わりになる
- 生命保険の代わりになる
- インフレに強い
- 節税になる
いずれもメリットとされるものですが、常にメリットになるとは限りません。
場合によってはデメリットになりかねないリスクがあるのです。
賃貸経営のメリットといわれるものについて
長期的な家賃収入
アパート経営やマンション経営等の賃貸経営では、長期間にわたって家賃収入を得ることができます。
ただ、賃貸経営には運営費用が必要で、家賃の下落や空室率の上昇によって家賃収入が費用を下回ってしまうこともあります。
年金の代わりになる
家賃収入を私的年金することもできます。
実際に老後の生活資金を家賃収入で賄っている方もたくさんおられます。
ただし、そのためには賃貸経営が黒字にならなければいけません。
また、急な修繕費等で出費がかさむと資金が枯渇してしまうこともあります。
年金とは定期的かつ継続的に給付される金銭です。
家賃収入は必ずしも年金のようには機能してくれないものなのです。
生命保険の代わりになる
オーナーに万一のことがあっても、賃貸物件は家族に残ります。
この時、「団体信用生命保険」に加入していれば、ローンの残債は保険で支払われるので、家族にローンは残りません。
残された家族は、賃貸物件を生命保険の代わりに得ることができることになります。
賃貸を継続すれば家賃収入が、売却すれば売却代金を一時に得られます。
ただし、賃貸経営が赤字であれば逆の結果になります。
家族は支払いに追われるか、負債を背負うことになるかもしれません。
また、黒字であっても思ったような一時金が得られるとは限りません。
不動産は売却に時間がかかり、しかも思ったような価格で売れるとは限らないからです
インフレに強い
現物資産である不動産を保有することは、インフレ対策になると言われます。
確かにインフレ、物価の持続的な上昇は貨幣価値の下落ですから、現金で保有するのは資産運用上不利になります。
しかし、不動産価格が物価と同じように上昇するとは限らず、特に立地条件が悪い不動産等はむしろ価格が暴落するおそれすらあります。
インフレ対策をしたいのであれば、現物資産の中でも金やプラチナ等を選択するほうが賢明です。
少ない自己資金でもはじめられる
賃貸経営ではローンを利用することが通常です。
金融機関も不動産投資ローン等を用意して利用しやすくしていますし、自宅併設の場合には住宅ローンが利用できることもあるでしょう。
そうしたおかげで自己資金が少なくても賃貸経営をはじめることができますし、家賃収入からローンを返済することで、賃貸経営を続けることもできます。
ただし、毎月のローン返済の分手取りは減ることになることは忘れてはいけません。
特に借入金額が多い場合はローン返済が収益を圧迫することになります。
また、空室が発生して家賃収入が減っても、ローンの返済の支払いは続きますから、最悪の場合資金ショートを起こすことになりかねません。
節税になる
相続税・贈与税の節税
相続税については、アパート・マンションが建築されている場合は相続税評価上「貸家建付地」となるので、評価が下がり、税額が大きく軽減されます。
所得税・住民税の節税
所得税・住民税については、取得に伴う登録免許税や不動産取得税等を経費に計上することや賃貸経営の赤字を他の所得と損益通算することで節税できます。
固定資産税・都市計画税の節税
固定資産税・都市計画税については、アパート・マンションが建築されていると「住宅用地」となり、空地や遊休地に比べ課税標準額が大きく軽減されます。
相続税・贈与税以外は節税になるとは…
所得税・住民税でほぼ確実に節税ができるのははじめのうちだけです。
赤字になることで節税になるのですから、儲かっていれば節税はできないのが基本です。
もちろん、現金支出を伴わない会計上の費用である減価償却費の分節税できる、ということはあります。
ただ、減価償却費を計上したら赤字になるような、不動産でなければ節税できないわけですから、儲かるような話ではないでしょう。
また、減価償却については、節税ではなく課税の繰り延べ、売却まで課税のタイミングを伸ばしているものなので、有効な節税とはいえないでしょう。
すでに空地や遊休地をお持ちの方なら、アパート・マンションを建築することで固定資産税・都市計画税を軽減することはできます。
ただ、新規に土地等を取得した方にとっては節税にはなりません。
また、建物にかかる固定資産税・都市計画税を考えれば節税になったといえるかどうかは疑問です。
以上、賃貸経営のメリットといわれるものは常にメリットとなるものではなく、デメリットとなるリスクがあるものなのです。
賃貸経営のデメリット
賃貸経営はメリットも多いのですが、デメリットもあります。
賃貸経営ではデメリットを事前に把握し、対策しておくことが重要です。
空室リスク
賃貸経営の最大の課題は空室です。
建物があれば家賃収入が発生するものではありません。
空室が多く発生すれば、家賃収入は減少していきます。
空室の発生は、地域の賃貸需給の状態や立地条件等の外部要因と建物や設備の状態等の内部要因、それらと家賃設定とのバランスに関係してきます。
立地条件が悪くても設備を充実させたり、家賃をリーズナブルな設定にすることで空室率を下げることができるでしょう。
空室対策については、空室時も家賃保証等をするサブリースのサービスもありますが、あまりおすすめはできません。
家賃保証率は10~20%といわれます。
管理会社に10~20%の費用を支払うことで、オーナーは設定家賃の80~90%の収入を保証されます。
サブリース契約をする前に、10~20%の費用を払って賃貸経営が成立するのか、家賃を10%程度下げても空室が埋まらないか、家賃決定権を手放していいか等を慎重に検討すべきでしょう。
有利と判断できてから契約しても遅くはありません。
建物の老朽化
建物の経年劣化は避けられません。
老朽物件となると家賃は下落しますし、入居者確保も難しくなります。
場合によっては家賃を下げても入居者を確保できないこともあるでしょう。
将来的な家賃の下落を見込むとともに、老朽化を先延ばしできるように管理費や修繕費等を適切に収支計画に盛り込んでおく必要があります。
建物の損壊・滅失リスク
建物が火災、地震等の災害で損壊・滅失してしまうおそれがあります。
これに対しては火災保険や地震保険に加入しておくことでカバーすることができます。
ただし、高すぎる保険料も賃貸経営を圧迫することになりますので、適切な保険に加入することが必要です。
金利上昇リスク
アパート・マンション等の賃貸経営は長期にわたりますから、その間に社会経済的な環境が変化することがあり得ます。
ローンを組んでいると金利が上昇する場面では支払いが増加し、最悪の場合経営が破綻することもあり得ます。
将来金利上昇が予測される場合には、固定金利を利用することで金利上昇リスクに対策することができます。
ただ、固定金利は変動金利に比べ利率が高くなっていますから、金利の動向によっては返済額が高くついてしまうこともあります。
流動性リスク
不動産は流動性が低い、現金化に手間や時間がかかる特徴があります。
買い手が見つかるまで時間がかかりますし、必ずしも希望価格で売却できるとは限りません。
売り急ごうとすれば買い叩かれてしまうことにもなりかねません。
特に賃貸経営がうまくいかなかったときには最悪の結果になります。
賃貸経営は、売り急ぐようなことにならないように、しっかりした計画に基づいて行うことが極めて重要です。
公務員の賃貸経営のメリットとデメリット
公務員の賃貸経営の特徴
現職の公務員の方にとっては釈迦に説法かもしれませんが、公務員の賃貸経営についておさらいします。
公務員の副業は実質的に禁止といえるほど制限されています(国家公務員法第103条及び第104条、地方公務員法第38条)。
しかし、公務員のアパート経営・マンション経営を含む不動産賃貸・不動産投資は、比較的制限が緩やかです。
公務員が合法的にできる賃貸経営
次の要件該当するアパート・マンションについては自ら営利企業を営むものとして人事院の承認または任命権者の許可が必要です(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について 第1項関係 4)が、これ以外のアパート・マンション経営ついては承認または許可は不要です。
- 建物が次のいずれかに該当
- ・独立家屋の数が5棟以上または区画の数が10室以上(いわゆる5棟10室基準)
- ・劇場等の娯楽集会、遊技等の設備がある
- ・旅館、ホテル等特定の業務用途に供されている
- 賃貸料収入が年額500万円以上
ただし、次の要件に該当する場合でなければ承認または許可を得ることはできません(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について 第1項関係 5 一)。
- 不動産賃貸に関して特別な利害関係またはその発生のおそれがないこと
- 管理業務の委託等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること
- その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと
公務員の賃貸経営のメリット
公務員の賃貸経営にはメリットがあります。
公務員の副業制限にかかりにくい
公務員であっても賃貸経営が一定規模未満であれば、承認または許可を得なくてもできます。
一定規模以上であっても承認または許可を得ることで合法的にできます。
ローンを組みやすい
公務員は金融機関の与信が高く、より大きな金額のローンをより有利な条件で組みやすいといわれます。
自己資金の不足のために賃貸経営を断念する、ということになりにくくなっています。
公務員の賃貸経営のデメリット
賃貸経営にメリットが多いといわれる公務員ですが、もちろんデメリットもあります。
賃貸経営の規模が限られる
賃貸経営の規模が一定以上になると、人事院の承認または任命権者の許可が必要になります。
- 建物が次のいずれかに該当
- ・独立家屋の数が5棟以上または区画の数が10室以上(いわゆる5棟10室基準)
- ・劇場等の娯楽集会、遊技等の設備がある
- ・旅館、ホテル等特定の業務用途に供されている
- 賃貸料収入が年額500万円以上
承認または許可を得ずにこれらに該当する賃貸経営をしてしまうと、国家公務員法・地方公務員法に違反することになり、懲戒処分の対象となります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。
承認または許可を得ればできるのですが、公務員は賃貸経営を自由にできるというわけではないのです。
賃貸経営のスタイルが限定される
賃貸経営にかかる承認または許可を得るためには、一定の要件があります。
- 不動産賃貸に関して特別な利害関係またはその発生のおそれがないこと
- 管理業務の委託等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること
- その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと
それほど厳しくないようですが、気を付けたい点があります。
利害関係が発生しないように
不動産業に関連する部署の職員は、利害関係が発生するおそれがないと考えられるとしても、大規模な賃貸経営には慎重になったほうがいいかもしれません。
このご時世、どんな指摘があるかわかりません。
国土交通省住宅局やそこからの補助金を扱う部署は気を付けたほうがいいでしょう。
管理業務等の委託
管理費等を浮かせるために、自分で管理業務等を行うことはできません。
管理費等を削りたい気持ちはわかりますが、明文で挙げられています。
公務の公正性・信頼性の確保
どのような状態が公正性及び信頼性の確保に支障が生じないことにあたるかは明確でないので、校正性及び信頼性は厳しく考えておいた方がいいでしょう。
例えば、一室で何らかの非合法行為が行われたときに、監督責任等、事後的に責任を問われることがないとはいえません。
公務員である以上、賃貸経営においても慎重に行動しなければならないのです。