アパート経営・マンション経営は公務員にもなじみのある副業です。
実際、多くの公務員がアパート経営・マンション経営に取り組んでいます。

ただ、公務員のアパート経営・マンション経営が違法になる場合もあるので、注意が必要です。


公務員はアパート経営・マンション経営に有利

アパート経営・マンション経営は初期投資が大きいものの、公務員が取り組みやすい条件がそろっています。

公務員でも合法的にやりやすい

後述しますが、アパート経営・マンション経営は公務員が合法的にできる数少ない副業の一つです。

公務員は有利な融資を受けやすい

公務員は金融機関の与信が大きく、ほとんどの場合有利な融資を受けることができます。
初期投資額が大きくなりがちなアパート経営・マンション経営では有利な条件です。

維持管理が本業に影響しにくい

不動産管理会社に維持管理を委託することで、オーナー自ら維持管理を行う必要がなくなります。
アパート・マンションの維持管理を委託することで、本業に大きな影響を及ぼすことなく続けていくことができます。

なお後述しますが、公務員がアパート経営・マンション経営をするためには、維持管理を委託しなければならない場合ががあるので注意が必要です。

取引が本業に影響しにくい

不動産は株や通貨等に比べて値動きが緩やかなので、慌てて取引をする必要が大きくありません。
また、通常不動産売買はある程度時間をかけて行うことになるので、突然取引になることは多くありません。
そのため本業に影響を及ぼすことなく取引をすることができます。

地域性を理解している

不動産は地域性が強く、地域の実情をよく知ることが成功に欠かせません。

地方公務員や国家公務員でも出先勤務の職員であれば、地域の実情に精通していることが多く、より有利にアパート経営・マンション経営を進められます。

公務員でも合法的にできるアパート経営・マンション経営

現職の公務員にとっては釈迦に説法かもしれませんが、公務員の副業制限についておさらいします。

公務員は実質的に副業禁止といえるほど、副業が制限されています(国家公務員法第103条及び第104条、地方公務員法第38条)。
しかし、アパート経営・マンション経営を含む不動産賃貸・不動産投資については、制限が極めて緩やかなものとなっています。

公務員が合法的にできるアパート経営・マンション経営の基準

次の要件該当するアパート・マンションについては自ら営利企業を営むものとして人事院の承認または任命権者の許可が必要です(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について 第1項関係 4)。

  • 建物が次のいずれかに該当
    • ・独立家屋の数が5棟以上または区画の数が10室以上(いわゆる5棟10室基準)
    • ・劇場等の娯楽集会、遊技等の設備がある
    • ・旅館、ホテル等特定の業務用途に供されている
  • 賃貸料収入が年額500万円以上

ただし、次の要件に該当する場合でなければ承認または許可を得ることはできません(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について 第1項関係 5 一)。

  1. 不動産賃貸に関して特別な利害関係またはその発生のおそれがないこと
  2. 管理業務の委託等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること
  3. その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと

これ以外のアパート・マンションについては、経営に承認または許可は不要です(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について 第1項関係 4)。

公務員がアパート経営・マンション経営をするには

公務員が合法的にできるアパート経営・マンション経営をまとめると、次のようになります。

次のすべてに該当すれば承認または許可を得ずにできます。

  • 規模が4棟までかつ9室まで
  • 娯楽集会や遊戯等の設備がない
  • 用途がホテル等の特定業務ではない
  • 家賃の合計が年500万円未満

上記の要件に一つでも該当しないと、承認または許可を得ることが必要になります。

この承認または許可を得るためには、そのアパート経営・マンション経営が公務員がしても問題ないことを職員の側で証明することが必要です。

公務員のアパート経営・マンション経営が違法になる

ここでは公務員法上の服務上の義務違反を中心に説明していきます。

公務員法の服務上の制限に違反した場合には懲戒処分の対象となります(国家公務員法第82条・地方公務員法第29条)。

公務員の副業制限違反

公務員が承認または許可を得る必要があるにもかかわらず、これらを得ずにアパート経営・マンション経営を行った場合には国家公務員法・地方公務員法に違反することになります(国家公務員法第103条・地方公務員法第38条)。

職務専念義務違反

公務員は、全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならないとされています(国家公務員法第96条、地方公務員法第30条)。

したがって、勤務時間中に物件取引や管理業務、それらにかかる連絡等をした場合には、職務専念義務に違反したことになります。

信用失墜行為

公務員の場合、法律違反にならない行為であっても信用失墜行為とされることがあります(国家公務員法第101条、地方公務員法第33条)。

その他違法になるアパート経営・マンション経営

公務員法上の服務上の義務違反以外にも、違法になるアパート経営・マンション経営には様々なものが考えられます。

  • 詐欺等の刑事犯
  • 建築基準法等の公法上の規制違反
  • 消費者契約法等違反

こうした違法行為については、個別法により処罰されることがありますし、信用失墜行為として公務員法上の懲戒処分を受けることもあり得ます。

公務員のアパート経営・マンション経営にかかる懲戒処分

国家公務員の懲戒処分

人事院の「懲戒処分の指針について」では、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げています。

その中で、アパート経営・マンション経営に関係が深いものについては、

  • 自ら営利企業を営むことの承認を得る手続を怠り、これらの兼業を行った職員は、減給又は戒告とする
  • 勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする

となっています。
さらに、個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得る、ともしています。

承認または許可を得ない副業の懲戒処分

公務員が承認または許可を得ずにアパート経営・マンション経営をしていた場合、標準的な懲戒処分は減給または戒告になります。
また、違反の程度が大きい場合や職員の反省がなかった場合等にはより重い処分になるでしょう。

職務専念義務違反の懲戒処分

職務専念義務違反に対する標準的な懲戒処分は減給または戒告となっています。

ただ、処分対象を「勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り、公務の運営に支障を生じさせた職員」としており、やや高めのハードルを設定しています。
そのため職務専念義務違反単独で懲戒処分となることは多くはないでしょう。

アパート経営・マンション経営にかかる懲戒処分

以上から、アパート経営・マンション経営にかかる懲戒処分として、処分を重くする大きな要因がない限り懲戒免職になることはないでしょう。

地方公務員の懲戒処分

地方公務員の場合、ほとんどの自治体で国公準拠、国家公務員と同様の基準で判断されます。

公務員のアパート経営・マンション経営にかかる実際の懲戒処分事例

減給1/10(3カ月)その後懲戒免職の懲戒処分事例

地方公務員が任命権者の許可を得ずに大規模なマンション経営をしていたことを理由に懲戒処分(減給10分の1(3カ月))を受けました。
その後規模を許可がいらない程度まで縮小するように職務命令を受けましたが、その地方公務員は当該職務命令に従いませんでした。
その結果、懲戒免職の処分となっています。

アパート経営・マンション経営で懲戒免職になるのは

上の事例では、承認または許可を得ずに大規模なアパート経営・マンション経営をしていたことについては、減給処分と懲戒処分の標準例の範囲となっています。
他の法令での重大な違反行為でもない限り、アパート経営・マンション経営で懲戒免職になることはないでしょう。

ただ、職務命令に従わなかったことに対しては懲戒免職となっています。
承認または許可を得なかったことよりも職務命令に従わないことの方がはるかに重い処分となっています。

賃貸収入7千万円の消防士を懲戒免職「損をしてまで売るつもりはない」
佐賀広域消防局

兼業を原則禁じる地方公務員法に違反し、約7千万円の賃貸収入を得ていたにもかかわらず、改善命令に従わなかったとして、佐賀広域消防局は31日、佐賀消防署予防指導課の男性消防副士長(44)を懲戒免職処分にした。

 消防局によると、副士長はマンションや貸店舗、駐車場など計12件を佐賀市内外に所有。同局は今年1月、7月19日までに人事院規則に沿って、個人名義の物件を、5棟10室、駐車台数10台未満、賃貸収入500万円以下に縮小するよう命令していたが、期限を過ぎても改善が認められなかった。

 副士長は聞き取り調査に、「損をしてまで売るつもりはない」「兼業を禁じるのは時代に合っていない」などと話している。

佐賀新聞 2016年9月1日
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/7582

減給1/10(3カ月)の懲戒処分事例

不動産賃貸業を営む法人の発起人となるとともに、代表者を母親名義にしてその法人の実質的な経営を行ったとして減給1/10(3カ月)の懲戒処分となったものです。

形式的に公務員がアパート経営・マンション経営をしていないようにしても、実質的に公務員が承認または許可が必要なアパート経営・マンション経営を承認または許可を得ずにしていた場合には懲戒処分の対象となります(国家公務員法第103条・地方公務員法第38条)。

懲戒処分の標準例から外れることは少ない

本事例は、重めではありますが懲戒処分の標準例の範囲である減給の懲戒処分となっています。
法人を設立し、公務員自身が不動産賃貸を行わない外形をつくりつつ、実質的に経営していたのですから、任命権者の許可を逃れるためととられても仕方がない行動です。

不誠実な行動があったにもかかわらず、懲戒処分は標準例の範囲にとどまっています。

本事例から考えると、相当重大な違反行為がない限り標準例より重い懲戒処分となることはないでしょう。

アパート経営で副業、仙台市職員を減給処分 年600万円超稼ぐ

 仙台市は8日、不動産賃貸業を実質的に営み、副業を禁止する地方公務員法に違反したとして、市納税部の40代の男性職員を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にした。男性職員は平成20年、市内のアパート3棟を購入し、年間約600万~700万円の賃料収入を得ていた。

 市によると、男性職員は「資産運用のつもりだった。副業には当たらないと思った」などと話している。28年3月には、発起人となって不動産会社を設立。母親を代表者に据え、実質的に経営していたという。

 昨年7月、職場の上司との会話で発覚した。市は「市民の信頼を損ねたことを深くおわびする。再発防止に努める」としている。

産経新聞 平成31年2月8日
https://www.sankei.com/affairs/news/190208/afr1902080027-n1.html