ユーチューバー(YouTuber)として動画を作成している公務員もたくさんいらっしゃいます。

ただ、役所との関係では公務員系ユーチューバーはまだまだこれからかもしれません。


公務員系ユーチューバーといえば

“公務員系ユーチューバー”で検索すると、“岩田早希代”さんと“おいでよ!ふくい”が真っ先に見つかります。

岩田早希代(いわた さきよ)さん

元NHKディレクターで、福井県の広報ユーチューブチャンネル「おいでよ!ふくい」の企画・演出・撮影・出演・編集すべてを一人でこなす“元”スーパー公務員です。

任期付任用(専門的知識等)の“元”福井県職員で、平成28年7月から3年間知事公室広報広聴課に勤務。
「おいでよ!ふくい」の動画を毎月1本のほか、独自取材の写真記事を週に3本以上、年間200本ほど発信していました。

なお、岩田さんは任期満了で令和元年6月に福井県を退職されています。

「おいでよ!ふくい」
https://www.youtube.com/channel/UCWlL1QEUajjZCwUhHNDkMQQ
https://www.facebook.com/oideyofukui/

なお、「おいでよ!ふくい」は2020年現在、二代目の石倉望央(いしくら みお)さんが担当されています。

動画の質は高いものの

岩田早希代さんの作成された「おいでよ!ふくい」のPR動画は、どれも格段に質の高いものです。
素人にはできない見せる工夫も施されていて、一見の価値のあるものばかりです。

ただ、再生回数では苦戦しているように、素人目では見えます。

役人視点からは村おこしに見える

役人的な視点から見ると、福井県が岩田早希代さんというユーチューバーを活かしきれなかったように思われます。

役人視点からは、苦戦し続ける役所主導の村おこしの構図と相似形にあるように見えるのです。

役所主導の村おこしは苦戦する

全国で村おこしは苦戦し続けています。
自治体が3,200以上あったころから失敗が多く、平成の大合併を経て1,800以下になった今でも苦戦を続けています。
ごく稀にうまくいったものがあっても、それを継続できたものはほとんどありません。

失敗事例は数多くありますが、その理由は驚くほど似通っています。

資源の分散

役所主導の村おこしではヒト、モノ、カネ、あらゆる資源を、一握りの砂をまくように分散させてしまうため、はじめから効果が出ないことがほとんどです。

例えば、かつて埼玉県川越市を真似して、蔵造りの街で村おこしをしようとした自治体がたくさんありました。
しかしほとんどがうまくいきませんでした。

川越市の蔵造りの街が魅力的だったのは徒歩で周遊できる範囲にまとまっていたからです。
一方、真似をした自治体では広範囲に分散していたうえ、相互に連携する方法もありませんでした。
しかもただでさえ少ない予算を、広く点在する蔵に「平等に」分散投入してしまったのです。

継続と蓄積の不足

資源の不足を補完するのが継続です。
量的な不足を時間の蓄積で補うのです。

ところが、役所主導の村おこしは効果が出るまで続けられないことがほとんどですし、効果が出てもそれを計画的に継続することが困難です。

役所は単年度予算なので、単年度で効果が出ることが求められ、近視眼的な運営になりがちです。

また、計画目標が必ずしも明確でないことが多く、政策的な配慮もあり、各年度の事業にの一貫性がなくなることがよくあります。
その結果、方向性が違う事業が並んでいるだけで、継続による効果の蓄積がされにくくなります。

積極的でない者の関与

公的な事業は参加希望者を拒むことができません。
やる気のある方ばかりならいいのですが、やる気がなくおこぼれにあずかりたいだけの人の参加も断れません。

彼らは拒否をするだけ、自分の権益を主張するだけで活動に貢献してくれません。
そのうちに全体の活気が損なわれ、活動も滞ってしまいます。

あちこちの商店街がどんどん活気を失っていくのを見れば、お判りいただけるでしょう。

役人的「おいでよ!ふくい」の印象

印象でものを言って申し訳ありません。
外部から勝手に想像しただけのものですので、間違っていることもあろうかと思います。
予め謝罪いたします。

役人的な印象ですが、「おいでよ!ふくい」は「デジタル」村おこしだったように見えています。

資源の分散

「おいでよ!ふくい」は福井県の魅力をアピールするために、観光、教育、産業等多くの分野を紹介しています。
そのため、一つひとつの分野の印象が弱く、魅力が伝わってこないように思います。

県の仕事ですから、特定分野に絞ったPRは難しいでしょう。
例えば観光分野だけに焦点を当てれば、教育や産業分野等から文句を言われます。
場合によっては部長が広報広聴課長のところに怒鳴り込んでくるかもしれません。
立場も背後もありますから大変です。

その結果、総花的にあらゆる分野を取り上げざるを得ないことになります。

一方、担当は岩田さんおひとりですから、活動量に限界があります。
ただでさえ少ない人的資源を、さらに分散投入することになります。
しかも製作費ゼロ、機材もない状態です。

それぞれ分野の動画量が少なくなり、魅力を伝えられなくなっている、そんな風に見えます。

継続と蓄積の不足

岩田さんは令和元年6月に退職され、石倉さんが後任になっています。
もともと期限付任用だったので、制度的には既定路線だったのでしょう。
「「おいでよ!ふくい」が新しくなります」の言葉どおり、担当者が変わることでチャンネルに新鮮さが加わっています。
メディア的にはいいことなのかもしれません。

しかし、省資源でやっていかざるを得ない環境では、不利な選択だという印象があります。
フローとして消費するのではなく、ストックとして蓄積していくことが大事だったのではないでしょうか。
判断は分かれるかもしれませんが、任期延長もあったのではないかと思われるのです。

「おいでよ!ふくい」が新しくなることで、岩田さんの制作した作品は過去のものとして陳腐化しかねません。
岩田さん時代の価値を損ねない形で継続できた方がよかったように思われます。

石倉さんの作品も素晴らしいものなので、これからの継続と蓄積で価値が高まっていくことを願っています。

積極的でない者の関与

各事業部は広報広聴課の事業にそれほど積極的ではなかったように見えます。
動画からは協力の痕跡を見つけることは困難です。

各部担当者も立場や背後があってのことなので、必ずしも協力的ではいられないこともあるでしょう。

その一方で、起案文書上、交流文化部、産業労働部や農林水産部等、関係する事業部への協議は求められたはずです。
各部の機嫌を損ねれば稟議が通りませんから、事前の調整が大変だったことは想像に難くありません。

内部の調整ばかりに時間を取られ、作品制作の時間を削らざるを得なかった状況が目に浮かびます。

ユーチューバーは役所との相性がいまいち

公務員系ユーチューバーの活動は、役所の仕組みとの相性は良くなさそうです。

公務員系ユーチューバーの仕事は、今日とは違う明日の社会を提案することです。
これまでとは違った視点を提示することが役割です。

これに対して、役所の仕事は社会システムの維持安定です。
国民・住民が予測可能な生活を送れるように、昨日と大きく変わらない今日を維持するのが役所の役割です。

公務員系ユーチューバーと役所とは、視点が異なりますし、社会での役割も違います。

両者がうまくかみ合って機能していくためには、間をつなぐ存在が必要なのかもしれません。