公務員の副業は実質的に禁止と言っていいほどで、様々な経済活動が制限されています。
自ら営利企業を営むこととされることについては、人事院の承認または任命権者の許可を得なければすることができません。
では、この制限に株取引は含まれるのでしょうか。

公務員にも株取引はできる

通常の取引であれば、公務員にも株取引は認められます。
株取引は利殖・資産運用の一つの方法であり、事業ではないと考えられるからです。

職員が自己の名義で商業、工業、金融業等を経営する場合は「自ら営利企業を営むこと」になります(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について)。
高頻度取引(High Freqency Trading:HFT)や高速取引(High Speed Trading:HST)のように利殖と言い切れないような場合には「自ら営利企業を営むこと」にあたる可能性を否定しきれません。
そしてこの場合には人事院の承認または任命権者の許可を得ない限り国家公務員法第103条または地方公務員法第38条に違反することになり、懲戒処分の対象になります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

公務員の株取引は職務専念義務の問題がある

むしろ問題は、職務専念義務(国家公務員法第101条、地方公務員法第35条)違反になるかどうかです。

直接株取引できるのは、証券取引所の株式市場が開いている平日の9時から11時30分まで(前場)と12時30分から15時まで(後場)です。
多くの公務員の勤務時間は、平日の9時から17時45分を中心とした前後30分から1時間の時差勤務です。

株価を確認しながら売買注文をしようとすると、勤務中に行うことになります。
これは明らかな職務専念義務違反になり、懲戒処分の対象になります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

勤務時間外に売買注文を出しておけばこうした問題は起こりませんが、指値注文で取引が成立しなかったり、成行注文で想定外の価格で取引が成立してしまったり、思い通りの取引ができなくなるおそれがあります。
そもそもスキャルピングやデイトレードといった短期取引を行うには極めて不利になります。

この点、取引時間外でも値動きする株を取引できる私設取引システム(Proprietary Trading System:PTS)があります。
しかし、利用者が少なく流動性が低い、つまり取引が成立しない可能性が高いこと、極端な値動きになる傾向といった欠点があります。

国家公務員法第101条(職務に専念する義務)
職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、官職を兼ねてはならない。職員は、官職を兼ねる場合においても、それに対して給与を受けてはならない。

国家公務員法第101条(職務に専念する義務)

地方公務員法第35条(職務に専念する義務)
職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。

地方公務員法第35条(職務に専念する義務)

公務員はインサイダー取引に注意

インサイダー取引(内部者取引)は、未公開情報を不法に共有・利用して証券市場取引を行い、情報を持たない投資家に損害を与える犯罪的行為です。

インサイダー取引規制の要件は(1)会社関係者(元会社関係者を含む。)が、(2)上場会社等の業務等に関する重要事実を、(3)その者の職務等に関し知りながら、(4)当該重要事実が公表される前に、(5)当該上場会社等の株券等の売買等を行うことです(金融商品商品取引法第166条)。

(1)会社関係者には、上場会社等に対して法令に基づく権限を有する者が含まれます。
(3)その者の職務等に関し知った者には、当該権限の行使に関し許認可権限を有する公務員等が含まれます。

公務の職場には上場会社等の業務等に関する重要事実(上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの)があり、公務員が行う株取引がインサイダー取引になる場合もあります。

ちなみに、インサイダー取引に対する制裁は重く、公務員法のそれの比ではありません。

インサイダー取引を行った行為者への制裁

  • 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらの併科(金融商品取引法第197条の2)
  • 犯罪行為により得た財産について必要的没収・追徴(金融商品取引法第198条の2)
  • 違反者の経済的利得相当額の課徴金(金融商品取引法第175条)

(なお、公務では考えられませんが、法人の代表者や従業員等が法人の業務等としてインサイダー取引を行った場合、法人も5億円以下の罰金(金融商品取引法第207条1項2号) が課されます(両罰規定)。)

未公開株にも注意が必要

公務の中で、権限の行使の対象となる会社の未公開株を取得すると、たとえ対価を支払っていたとしても贈与に当たるおそれがあります。
この場合、国家公務員倫理法第3条第3項に違反し、懲戒処分の対象になります。

国家公務員倫理法 第3条第3項
職員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならない。

国家公務員倫理法 第3条 第3項

公務員が株を副業にするなら中長期的な取引を

以上から、公務員が株取引を副業にする場合、公務員にとって不利である短期取引ではなく、中長期的な投資を中心にすべきでしょう。
また、インサイダー取引、未公開株には注意が必要です。