副業としての農業が現実的な選択肢となりつつあります。

農業には自然に囲まれた生活や作物をつくることの喜びといった魅力があります。
しかし、かつては長時間労働・3K仕事・低所得として敬遠されていました。

この点、現在では第6次産業化やインターネットを利用した直販等、事業としての農業の価値が年々高まっています。
IT技術の導入やAIの活用等、アグリテック(Agri-Tech)と呼ばれる新技術が、作物の品質管理、天候予測、間引き等の最適化を可能にしつつあります。

農業は副業の選択肢

育てやすい作物への品種改良や耕運機等の農機具の発展等により、農業の省力化はどんどん進んでおり、農業が副業として成立するようになってきています。

公務員が副業として農業をはじめることは

では、公務員が副業として、新規に農業をはじめることはできるでしょうか。
結論から言うと、公務員は狭義の農業を副業にすることはできません。
自分の家族が食べる分だけ栽培するような小規模な農業を行うことは可能ですが、本格的な農家として収入を得ていくことはできません。

公務員の農業にかかる副業制限

公務員は副業が制限されており、農業を副業とするのにも一定の制限があります。

一定の農業には承認または許可が必要

公務員は人事院の承認または任命権者の許可を得なければ、自ら営利企業を営むことを制限されます(国家公務員法第103条、地方公務員法第38条)。
農業については、「大規模に経営され客観的に営利を主目的とすると判断される場合」には自ら営利企業を営むことに該当します(人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について)。
そして、承認または許可を得ずに大規模な農業経営等を行うと懲戒処分の対象になります(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。

公務員の新規就農は承認または許可を得られない

承認または許可には一定の基準があり、この基準に適合しなければ承認または許可を得ることはできません。
承認または許可を得られる農業は、相続・遺贈等により家業を継承したものに限られ、新規に就農したものは含まれません。

三 不動産又は駐車場の賃貸及び太陽光電気の販売以外の事業に係る自営を行う場合で、次に掲げる基準のいずれにも適合すると認められるとき。
(1) 職員の官職と当該事業との間に特別な利害関係又はその発生のおそれがないこと。
(2) 職員以外の者を当該事業の業務の遂行のための責任者としていること等により職員の職務の遂行に支障が生じないことが明らかであること。
(3) 当該事業が相続、遺贈等により家業を継承したものであること。
(4) その他公務の公正性及び信頼性の確保に支障が生じないこと。

人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について

公務員が副業ではじめられる農業は

以上から、公務員が副業で農業をはじめようとする場合には承認または許可が不要なものつまり、「大規模に経営され客観的に営利を主目的とすると判断される場合」に該当しないものに限定されます。

「大規模に経営され」の意味

大規模かどうかは一律に定められるものではなく、個別具体的な事情を考慮して判断されます。
都市部かどうかで大規模の基準は変わるでしょう。
また、面積だけでなく建物や設備の有無等によっても変わってきます。

結局、規模については「営利を主目的とする」か否かも含めて、総合的に判断されることになります。

「客観的に営利を主目的とすると判断」の意味

営利を主目的にしているかどうかは、客観的、つまり懲戒権者である任命権者が判断します。
職員の主観では非営利目的であっても、任命権者が判断すれば営利を主目的としたものになります。

では、任命権者はどのような点を考慮して営利を主目的と判断するでしょうか。

この点、販売の有無が重要になります。
収穫全部を自家消費や無償譲渡して、対価として金銭等を受け取っていなければ、営利目的とはなりません。

問題は収穫物を販売した場合です。
営利を「主目的」とする、としているので、販売行為が一切禁じられているわけではありません。
自家消費しきれない余剰分を少量販売したような場合には、営利が主目的と判断されないでしょう。
ただし、販売額が大きかったり、販売量が多かったりすると営利目的と判断されるおそれがあります。

このあたりはまさに任命権者の判断になります。

新規の小規模農業は難しい

農地法の壁

耕作目的での農地の所有権移転や賃借権の設定には、農業委員会の許可が必要です(農地法第3条)。
この許可を受けないでした場合には、効力を生じないこととされています。

農地法第3条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。
(以下略)

農地法

農地取得等の許可要件

この許可を受けるためには要件があり、それらのうちに全部効率利用要件と下限面積要件があります。
全部効率利用要件では、農地の全てを効率的に利用して耕作することが求められます。
下限面積要件では、農地の効率的な利用を確保するため、権利取得後の農地面積の合計が50a(または地域の実情に応じて農業委員会が定める面積)に達していることが求められます。

農家でないと農地を確保できない

新規に農地を確保して耕作するためには、自家消費量をはるかに超える規模の権利を取得し、そのすべてを耕作しなければなりません。
したがって農業を新規にはじめようとすれば、必然的に「大規模に経営され客観的に営利を主目的とすると判断される」ものになってしまうのです。

公務員の副業としての農業は

公務員が副業として狭義の農業を新規にはじめることはできません。
副業制限にかからない規模の農地を取得等することは、農地法上できないことになっているからです。

自家消費分を賄うだけの小規模な農業を行うことは可能ですが、作物を販売して収入を得ることは難しく、副業というには不十分なものです。

公務員の副業として農業を新規にはじめることは、極めて困難です。

公務員の副業には向いていないが

農業を公務員の副業とするのは難しいことですが、農業それ自体は非常に魅力的なものです。

食品を購入しないですみますから、その分の支出を節約できます。
それに、自ら育てた作物を収穫して食べるという経験には、お金に換算できない価値があります。

収入にこだわるのではなく、人生を豊かにする活動としての農業には、大きな価値があるのです。